神田外語の未来 体験から本気の学びを導く

グローバル・リベラルアーツ学部誕生前夜史1 前澤宏和 神田外語大学大学改革室課長『学部設立の現場から』

“Global Liberal Arts for Peace”をコンセプトに掲げた新学部は、4年間で完結する学びのストーリーの構築を目指しました。他に類をみない「海外スタディ・ツアー」は神田外語グループが数十年前から提唱してきた教育の理想の具現化でした。(文中敬称略)

■ 留学から始まる4年間の物語

グローバル・リベラルアーツ学部(以下、GLA学部)では、4年間で完結する学びのストーリーを構築している。

【図表:4年間の学びサイクルの概念図】

入学後の6カ月は「グローバル・チャレンジ・ターム」として自分は何を目指し、何を学ぶかを考える期間。その後、「海外スタディ・ツアー」に参加し、 海外で学ぶことで世界の現実を知るとともに、自分自身の学びの目的に気付く。2年次は、3つの異なる学問領域にわたり教養科目を学ぶとともに、アカデミックな英語運用能力を養う。そのうえで3年次はニューヨーク州立大学(SUNY)に留学し、これまで培ってきた問題意識、教養、英語力で世界中から集まる学生たちと議論を交わす。そして、帰国後の4年次は「キャップストーン・プロジェクト」として、入学後に得た知識と経験、アプローチ力などを総動員して卒業研究を行うのである。

単に専門科目を履修し、ゼミで卒業研究を行うのではなく、それぞれの年次の体験と学習がらせんのように連鎖し、学生の能力を高めていくように設計されているのだ。


■ キャップストーンで4年間の学びを完結

イギリスへの派遣留学から帰国し、大学改革室でGLA学部の設立準備に携わることになった前澤は「オンリーワンの学部をつくってくれ」と神田外語大学を経営する学校法人佐野学園理事長の佐野元泰から指示を受けた。だが、指示はそれ以上なかったという。前澤は自分なりに佐野の意図を考えた。

「理事長はよく『ストーリー』という言葉を使います。どんな企画でもそこには目的とストーリーが必要だとお考えなのです。新学部でも4年間の学びをストーリーとして完結させる。そう解釈し、4年間の学びのステップを構想しました。ただ、理事長にはそれで正しかったか確認はしていませんが」

前澤にはもうひとつ想いがあった。学生が世界で活躍することの後押しがしたくて外国語大学の職員になった前澤だが、働きながら「卒業生に果たして『外国語力以外の何か』を授けられているだろうか?」ということを自問し続けてきたという。卒業する学生に「大学で何を学んだ?」と聞くと「英語」とは答えるが、「他には?」と尋ねると言葉に詰まることがあったようだ。

新しい学部では、4年間の学びにストーリーを設けて、外国語に堪能になることはもちろん、言葉以外の何かを授けたいと強く思ったのである。そのような想いに対し、ロバート・デシルバ副学長が欧米の大学で使われる「キャップストーン(capstones)」という概念を語ってくれた。4年間の学びを蓄積し、ふたで閉じ込める。つまり、集大成するのである。設置準備に携わる教員との共通イメージも生まれ、4年間の学びのプロセスが生まれたのだ。


■ ガツンと刺激のある留学先を選定

GLA学部における学びのプロセスで特徴のひとつは1年次に4つの国と地域から留学先を選択し、3週間滞在する「海外スタディ・ツアー」である。その候補地が実にユニークだ。

【図表:海外スタディ・ツアーの留学先】

第2次世界大戦時にはソビエト連邦やナチス・ドイツに侵略された歴史を持つリトアニア。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であり、今も対立が続くエルサレム。IT大国として成長を続ける一方で、深刻な貧困問題を抱えるインド。そして、世界有数の熱帯雨林があり、生物の多様性が豊かなマレーシア・ボルネオ。

どの目的地も、欧米先進国にはない風土や文化、歴史に強い個性があり、大学1年生がそれまでの常識を覆され、世界の現実や課題を肌で感じるのには最適な留学先なのである。

留学先の選定でこだわりを見せたのは神田外語大学学長の宮内孝久だ。前澤はこう回想する。

「宮内学長は商社でビジネスをされてきた方です。ご自身も異国の文化を体当たりで経験しながら、学んでこられたので、『ガツンと頭を殴られるようなインパクトを学生たちに体験させたい』ととても熱心でした」

実は前澤自身にも同様の体験がある。就職氷河期に大学を卒業し、外食企業に就職。ほとんど休暇を取れない過酷な労働条件に疲れ果て退職した。その後に旅したラオスで目にした「貧しいけれど心が豊かな人々」との出会いが、「外国と日本の懸け橋となる若者を育てたい」という現在の仕事への原動力となった。経験が行動を生む。それは前澤自身が実感していたことだったのである。

しかし、多くの大学が海外研修で訪れないということは、それだけ現地大学とのパイプも乏しいと言える。

「今回の選定地域は世界に広がる神田外語グループのネットワークもほぼ通じませんでした。それぞれの大学に直接コンタクトして、こちらの意図を説明し、留学プログラムを構築していきました。どの大学も外国から大学生を受け入れるための多様なプログラムを用意していますから、話が通じた後は比較的スムーズに進行できました」


■ 40年前に語られていたGLAの原型

GLA学部では海外スタディ・ツアーを含む1年次を「Feel(感じる)」期間と位置付けている。海外で感じることで問題意識と学習意欲が生まれ、2年次は教養科目をじっくりと学び「Think(考える)」。3年次はSUNY留学「Act(行動)」し、そして人生のキャリアを「Start(始める)」4年次へとつなげていくのである。

感じることが行動を生む。経験から学ぶ学習法はデイビット・コルブという学者の「経験学習理論」で学術的にも証明されているが、その重要性を同じように説いていた人物がいる。神田外語グループの生みの親、佐野きく枝(佐野学園第2代理事長)である。

佐野きく枝は昭和54(1979)年9月、雑誌『婦人公論』の対談で、国が費用を負担して高校を卒業した若者を海外でのボランティア活動に派遣すれば、将来、諸外国と争うことはなくなると提言したうえでこう語った。

「いろいろな体験をすれば、ほんとうの自分が見えてくる。それから自分の進路を定めれば、しっかり勉強できるんじゃないでしょうか。
将来、自分は何になるのか。あるいは、自分は何を勉強したいのか。いま大学に入ろうとしている人たちのほとんどが、目的がはっきりしないまま勉強している。世界と日本のかかわりあいを、しっかり把握したうえでこそ、勉強も生きてくるのではないか、と私は信じております。」

海外でリアルな経験をし、感じたことを基に本気で学ぶ気持ちを引き出していく。GLA学部が打ち出した1年次の海外スタディ・ツアーは、神田外語グループにおいて脈々と模索が続けられてきた「体験から生まれる必然としての学び」を数十年の時をかけて体現したものだったのである。(第3話に続く)


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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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