神田外語の未来 常識を超えるための制度設計

グローバル・リベラルアーツ学部誕生前夜史1 前澤宏和 神田外語大学大学改革室課長『学部設立の現場から』

令和3(2021)年4月に設置予定のグローバル・リベラルアーツ学部では、「言葉は世界をつなぐ平和の礎」という神田外語の建学の理念を体現するための教育内容を設計しました。その充実した内容は、かつてない制度設計への挑戦でもありました。(文中敬称略)

■ 振り返る力を重視する面接試験

一人ひとりが描く平和の実現のために教養を学ぶグローバル・リベラルアーツ学部(以下、GLA学部)の最大の課題は、この学部で学ぶにふさわしい学生をいかに集められるかという点にある。

前澤は「やはり世界規模の課題に対して、自分でしっかり考えて、行動を起こして少しでもインパクトを与えていきたいという気概のある学生に集まってほしい。『来たい奴だけ来い!』というのが本音です。その本気度を測るためにGLA学部では筆記試験に加えて、面接試験を点数化しました」と説明する。

神田外語大学では昭和62(1987)年4月の開学以来、大学入学試験において面接試験を実施してきた。ただ、この面接試験は点数に反映されることはなく、面接する教員の主観として神田外語大学にふさわしい学生であるかを確認するにとどまっている。

GLA学部では日本語プレゼンテーションを行う面接試験がある。だが、重視されるのは上手でそつのないプレゼンを行うことではない。受験生はプレゼンを実施した後、いったん別室に移動し、もう一度、面接会場に呼ばれる。問われるのは自身のプレゼンの「振り返り」である。

「GLA学部では、『経験をして、目的意識を明確にして、本気で学ぶ』というサイクルを繰り返すなかで能力を高めていきます。大切なのは、何かを経験した自分を謙虚に見つめ、次の行動へと展開していく力です。面接試験の比重は大きいですから、筆記試験で失敗しても面接で逆転というのも大いにあり得ます」

確かに何事においても、諦めず続け、行動を評価し、改善し続けることでしか大きな成果は生まれない。GLA学部では、まさにその行動の素養を持った学生を選抜するという意思をこの面接試験で示しているのである。


■ 奨学金制度の創設で留学を支援

在学中の2回の海外留学という充実したプログラムは、一方で、多額の費用がかかることを意味する。

GLA学部では4年間で561万円の学費を予定している。外国語学部の542万円と比べて20万円ほど多く必要だが、これに別途、3年次のニューヨーク州立大学(SUNY)の留学費用が概算で200万円ほどかかる。合算すると761万円である。

「教育プログラムを充実させると、どうしても費用がかかります。学費や留学費用の設定は学内でもずいぶんと議論しました。特に宮内孝久学長は民間企業にいた方ですから、『この金額では学生は来ない』と経営層に主張したそうです」

費用面でいかに学生の負担を減らすか。その方策として、まず1年次の「海外スタディ・ツアー」の費用を全額、神田外語大学が負担する制度を設けた。1年次の負担を外国語学部と同等とすることで、GLA学部への志望を学費面で妨げない方策を取った。

さらに、GLA学部独自の奨学金も設けた。これまで大学独自の奨学金制度を設けてこなかった神田外語大学としては大英断である。

まず、「特待生スカラシップ」は入学試験の成績優秀者が対象。グローバル社会に貢献する人材への成長に期待し、入学前に給付する。また、「成績優秀者スカラシップ」も設けられた。入学後の2年間の成績優秀者を対象としており、獲得できればSUNY留学費用に充てられるのである。

社会の改善を願う学生が必ずしも経済的に恵まれているとは限らない。厳しい境遇に生まれたからこそ、社会を変えたいと考える若者もいるはずだ。GLA学部がこの奨学金制度を皮切りにさらなる学生支援の制度を充実させることに期待したい。


■ オンラインを生かし 4 つの国と地域で研修

令和2(2020)年に入り、新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい始めた。感染拡大防止を目的に、4月には非常事態宣言が発令された。全国の大学では、キャンパスでの対面授業を中止し、オンラインによる遠隔授業を開始。

数多くの大学で令和2年度いっぱいはオンライン授業が継続される見込みだ。GLA学部が始まる令和3(2021)年4月の状況は分からないが、さらなる課題は留学を目的とした海外渡航再開のめどがまったく立っていないことである。

「GLA学部に学生が入学した後、1年次に海外スタディ・ツアーを行える可能性はかなり低いでしょう。ただ、在学期間中に必ず実施します。新型コロナウイルスの影響をみながら、柔軟にカリキュラムを変更していきます」

さらに前澤はこのリモート学習の環境を活用して、「海外スタディ・ツアー2.0」とも呼ぶべき段階に教育内容を進化できないかと模索する。

「基本的な設計では、海外スタディ・ツアーは4つの国と地域からどれかを選ぶ方式です。しかし、リモートであれば、事前研修を全員が全ての大学で行うことが可能です。それぞれの留学先や大学の内容をリモートで学び、その後の実際の留学へと活用する。その実現に向けて各大学と調整を行っています」

新型コロナウイルスによって留学から始まる学びのストーリーが崩れるのは不遇である。しかし、設置の前年に新型コロナウイルスの感染拡大が起き、改めて戦略を立て直せたのはGLA学部の幸運と言えるだろう。新型コロナウイルスによって社会全体で急速にデジタル社会への変革が進むなか、教育の変革も自明である。GLA学部は、新たな学部であることの強みを生かし、教育の在り方を進化させていく考えだ。


■ 建学の理念に挑戦するリーダー

神田外語大学、神田外語学院を擁する学校法人佐野学園は、歴代の理事長がそれぞれの代で日本の英語教育に大きなインパクトを与える事業を誕生させてきた。創業者の佐野公一・きく枝夫妻(初代・第2代理事長)は、英語を母語とする教員による英語教育と仕事に役立つ実学教育を融合させ、神田外語学院を日本最大規模の専門学校へと育てた。

第3代理事長の佐野隆治は、父の遺志を継いで千葉・幕張に神田外語大学を設立し、異文化コミュニケーションという新たな学問の場を育てた。また、平成6(1994)年7月には福島・天栄村に国際研修施設であるブリティッシュヒルズを開業。中世英国の徹底した時代考証を施した建物の環境で、英語漬けになって学ぶかつてないリゾート研修施設を誕生させたのである。

そして、GLA学部は第4代理事長の佐野元泰が主導したプロジェクトである。主眼は原点に立ち返ることで神田外語大学の教育を進化させることだった。その成果は未知ではあるが、神田外語グループの必然から生まれたバトンであることは間違いない。

「言葉は世界をつなぐ平和の礎」

長きにわたり語り継がれてきたこの理念をいま一度、新たな学びの場として実現できるか、神田外語大学はその真価が問われているのである。


次回は神田外語大学副学長の金口恭久です。


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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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