神田外語の未来 挑戦心のある入学生と出会うために

グローバル・リベラルアーツ学部誕生前夜史2 金口恭久 神田外語大学副学長『学部設立の現場から』

グローバル・リベラルアーツ学部(以下、GLA学部)では3年次後期のニューヨーク州立大学への留学を目標に、さまざまな教育が展開されていきます。しかし、GLA学部が学生に養わせたいのは、英語力や教養だけではありません。学生たちが目指すべきは “Lifelong Learner”。 ロバート・デシルバ学部長に、学生たちにどのような能力を授けたいかについてお伺いしました。(文中敬称略)


■神田外語が培ったSALCをフル活用する

GLA学部の学生たちは、海外スタディ・ツアーを出発点に、海外の諸問題から自身の関心を浮き彫りにし、リベラルアーツの学びでテーマをひもとける広くて深い教養を身につける。同時に、学生たちには3年次後期にニューヨーク州立大学(以下、SUNY)で英語による専門科目の授業に対応できる英語運用力を身につけるという明確な目標がある。デシルバは、この高い目標設定をクリアするために神田外語大学が長年培ってきた英語教育が生きると語る。

英語の運用能力を確実に高めるには、学生が自身の能力を客観的に認識し、能力に適した学習法と教材を使って、モチベーションを維持しながら地道な学習を続けていく必要がある。だが、その継続的な学習は容易いものではない。神田外語大学では、昭和62(1987)年の開学以来、外国語を自立的に続ける能力と習慣を養う教育法を研究し続けてきた。その答えのひとつがSALC(Self-Access Learning Center)なのである。

SALCでは、ラーニングアドバイザーが学生の英語運用能力の習熟度を分析し、学習プランを共に立案し、その実践をサポートする。豊富な教材を取りそろえ、その全てを習熟度別に分類し、学生が自分の能力や関心、目的に合った教材を選べる環境を整える。SALCのある8号館には外国の環境を再現した学習空間が設けられ、外国人教員が常駐し、日々の学生生活のなかで英語を自発的に話せる環境を提供しているのだ。この神田外語大学で生まれた英語学習のソリューションは、令和3(2021)年4月時点で国内6つの中学・高校・大学に導入されている。

「これまでSALCの利用は学生の意思に任せていましたが、GLA学部では1年次の必修科目としてSALCを取り入れました。GLA学部に入ってくる学生の英語力はさまざまですが、3年次後期にはアメリカの大学で専門科目を英語で学べるレベルまで引き上げなければなりません。学生はSALCの授業で、自分の英語力を客観的に知り、効率的に英語力を伸ばしていきます。また、ラーニングアドバイザーとの関係を構築できますので、2年次以降も継続的にコーチングを受けることで、英語学習の習慣を身につけて、SUNYへの留学準備を進めます。神田外語大学の強みである学生一人ひとり、個人を大切にするアドバイジングシステムをフル活用していきます」

GLA学部の英語学習の基礎を支えるのは神田外語大学が築いてきた教育メソッドなのである。


■5つの“C”に秀でた人を育てたい

令和2(2020)年2月、新型コロナウイルス感染症が世界的に猛威を振るい始め、感染拡大を防止するために日本と海外の往来が厳しく制限された。留学など海外での学びを重視する国際系の学部では想定するプログラムを実施できない状況に追い込まれた。在学中2度の留学を前提とするGLA学部も初年度は海外スタディ・ツアーをオンラインによるプログラムに切り替えるなど、変更を余儀なくされている。

だが、GLA学部が学生に身につけさせたいのは、表面的な教養や英語力ではない。デシルバは、目指すべき能力は5つの“C”で表現できると語る。

「まず、“Communication”です。日本語と英語の両方でコミュニケーションをする意思のある人を育てます。例えば、外務省で仕事がしたければ、日本語と英語の両方でコミュニケーションできることが必要ですからね。次に“Collaboration”。問題を解決するには、さまざまな立場の人々や専門家たちとコラボレーションし、協働しながら研究し、プロジェクトを進める必要があります。アクティブラーニングの授業では、60人の学生がコラボレーションを学ぶプログラムを用意しています」

3番目のCは“Critical Thinking”(批判的な思考)である。デシルバは“Critical Reflection” (批判的な振り返り)とも表現できると語る。

「自分の経験や観察、研究を振り返ることが大切です。授業での経験についてもそれが自分にとってはどんな意味があったのかを考え、必ず電子版ポートフォリオに書き込みます。Critical Reflectionにより、いろいろなことが頭に入りますが受け入れられないこともある。どうして受け入れられないのか? この情報はどこから来たのか? そういうことを考えていくことが重要なのです」

「そして、4番目のCは“Creativity”です。例えば、海外スタディ・ツアーでは、学生によって取り組む国や地域、テーマは異なります。しかし、自分が得たことを持ち帰り、他の友人たちとの議論を通じて、Recombination(組み替え、再結合)をしていくことで、新たな価値をクリエイトすることができます」

一般的にはこれらの4Cが今を生きるために必要な能力とされるが、デシルバはここに “Connection”(つながり)を加えたいと強調する。

「つながりを探す。必ず今までの自分のアイデンティティと新しく習ったこと、これまで考えてきたこと、全てのつながりが分かることも大切だと思います。そういう能力のある学生を育てたいですね」


■圧倒的な多様性を体験するSUNY留学

神田外語大学は、昭和62(1987)年の開学当時、「異文化コミュニケーション」という学問領域を特徴とすることによって、それまでの外国語大学とは一線を画す斬新な教育コンセプトを打ち出していった。文化の異なる人々とコミュニケーションを図り、共に目的を達成できる人材を育成する。その実現に取り組み始めてから30年以上が経過した今、世界はインターネットという情報網でリアルタイムにつながれるようになった。デシルバは、そのつながりが「シェア(共有)」を生んでいると語る。

「インターネットによってフィルターを通さないダイレクトなつながりができるわけですよね。ZoomやSkypeで外国の人々とも簡単に連絡が取れる。世界の異なる場所に暮らしていても、同じYouTubeを観ていたりする。音楽、映画、ゲーム。学生たちはすでに世界の人々と、価値観や関心、バックグラウンドをシェアしているのです」

かつて外国人と言えば異なる価値観や常識を持っていることが前提であり、違いを認識しながら、どちらにも偏らない「第三の文化」を構築することが重要とされてきた。だが、インターネットという世界をシームレスでつなぐインフラが整ったことにより、日々の暮らしのなかで共有できる価値観や情報が飛躍的に増加していると言えるのだ。

しかしなお、海外には日本人の想像を超える異文化がある。それを体験できるのが3年次のニューヨーク州立大学(SUNY)への留学だ。GLA学部でも異なる考え持った学生に出会うことができるが、SUNYにおける学生の多様性は日本の大学では体験できないものだとデシルバは強調する。

「まず、年齢。若い人もいるけれど、中年から高齢者まで年齢に関係なく大学に通っています。次に、民族。さまざまな文化背景を持った人々と共に学びます。社会階級の違いもある。お金のない人は奨学金をもらって大学で学ぶことができます。そして、難民もいれば、移民もいます」

まさに、「人種のるつぼ」のなかで学ぶのだが、アメリカ特有の背景を持った学生もいる。

「あとは、ヴェテラン(Veteran)ですね。戦地からの帰還者です。アメリカは徴兵制がないので、軍隊へは志願者が入隊します。数年間、軍隊に服務すると、大学の学費が支給されるのです。高校を卒業して、軍隊に行き、大学に入学する。経済的に厳しい人が大学で学ぶための選択肢のひとつですね。派兵されるのは、イラクであり、アフガニスタンです。戦地での経験のある学生が、教室で自分の隣の席に座り、一緒にディスカッションする。日本では経験できないことです」

強烈な多様性がある学びの場だが、シェアを起点とすれば、コミュニケーションはできるはずだとデシルバは自信を持つ。

「確かに背景は違うし、理解できないことも多いでしょう。でも、同じ授業を取っている。同じテーマに関心がある。そして、ネットを通じてさまざまな文化も共有している。最近では、COVID-19という経験も共有している。そういったシェアでつながりながら、自分の研究をベースに議論をする。そこで得られる関係性はかけがえのないものです」


■生涯学び続けられる“Lifelong Learner”を育てたい

GLA学部での4年間の学びを終えた学生たちは、どのような能力を身につけた人として卒業してもらいたいとデシルバは考えているのだろうか?

「育てたいのは、大学卒業後も、継続的に人生を懸けて学ぶことができる“Lifelong Learner”です。学ぶのは教室のなかだけではありません。働き始めても、もちろん学ぶ。観察し、疑問を感じ、質問を考え、原因と方法を探っていく。職場の愚痴を言う前に、なぜ問題が生じているかを探り、解決に取り組む。リベラルアーツという学問では、疑問の答えを探る方法を学べます。まずは、『なぜ?』と問い掛けられる力を養う。問い掛け続ければ、解決の糸口は見つかっていくものです」

人生100年時代と言われる今、学生たちは長い人生を歩んでいく。気候変動をはじめ、地球レベルでさまざまな問題が噴出している今、不透明な時代を生きていかなければならない。Lifelong Learnerであることは、先の時代を見通すビジョン(展望)を得る力にもなる。

「GLA学部は神田外語グループの『言葉は世界をつなぐ平和の礎』という建学の理念を体現するために生まれました。それは混迷を極める21世紀にふさわしいビジョンです。入学生はみな21世紀生まれの“21st Century Kids”。21世紀を生きていく学生たちは、これから50年以上のキャリアや、人生を歩んでいく。でも、僕たちには、学生たちにどんな未来が待ち受けているかなんて分からないでしょ。だから、リベラルアーツという学問を通じて幅広く学びながら、自分のなかにあるモチベーションを発揮して、物事をしっかり観察して、つながりを探す。そして、Lifelong Learnerとして学び続け、未来へのビジョンも描いていく。その学びがGLA学部にはあるのです」

令和3(2021)年4月1日。神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部は開設された。入学生は59人。のべ406人に及ぶ受験者から選抜された1期生である。神田外語大学開学から35年目を迎えた年の春、大学教育の新たなあり方を実現するチャレンジが始まったのだ。


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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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