神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部(以下、GLA)1期生インタビューの第2回は斎藤紅里さんです。高校時代から国際NGOの活動に参加するなど積極的に行動してきた斎藤さん。第一志望として選んだGLAという環境で斎藤さんは何を感じたのでしょうか?
海外旅行は好きで高校卒業までに7カ国ぐらいに行きましたが、英語がとにかく苦手で留学を考えたことはありませんでした。
高校では理系コースを選択していて、大学では情報工学を学ぼうと考えていました。ITの分野でテクノロジーの発展に貢献したいとずっと思っていたんです。でも、ITを深く学べば学ぶほど、ITの発展が格差を生んでいるのではと疑問を持つようになり、自分は格差を広めるのではなく、格差を狭める方に行きたいと思うようになりました。
海外旅行を通じて、外国の異文化に興味を持ったから、ITの発展していない国々の教育や医療をもっと知りたいと思い、高校生でも活動に関われる国際NGOに参加しました。活動の内容はアフリカのウガンダにある農村部でトイレと貯水タンクを作ることです。
大学で学んだ後は、アフリカをはじめ発展途上国で仕事をしたいと思うようになり、そのためにはまず苦手な英語を克服しようと考えました。英語を学ぶ学部はたくさんあるけれど、GLAなら平和について学び、発展途上国についても学べる。英語は苦手だけど、「英語を用いて学ぶ」というGLAの方針に惹かれて、環境的に英語を使わざるを得ない環境に入り込めば苦手意識が消えるのではと思ったのです。
実際、入学後は英語の授業やディスカッションがほとんどなので、英語を話すことが恥ずかしいという感覚はずいぶんなくなりました。
発展途上国で仕事をするといっても、何をするか決めていなかったので、GLAの4年間でいっぱい学んで、新しい何かを見つけられたらいいなと思っていました。英語を用いて平和について学ぶGLAだけが特別だったので、迷わなかったし、すでに有名私立大学の合格が決まっていたけれど、お断りして、GLAの入試に絞りました。
令和2(2020)年10月の入学試験(AO総合型前期)では、SDGsの「安全な水とトイレを世界中に」をテーマに選び、NGOでの活動も交えながらプレゼンテーションをしました。
意識したのは「シンプルかつ、明確に伝えること」です。自分の経験を絡められたので話しやすかったですね。でも、テーマと内容が自分ごとになり過ぎてしまった部分もあり、パッションを入れ過ぎたことをリフレクションの時間に反省しました。感情と情報を分けることは大事です。でも、プレゼンテーションは準備さえしっかりすれば、本番は楽しめると思います。
高校は女子校で、生徒会や国際NGOで活動しているだけで、周りからは「すごいね」と言われていました。でも、自分ではそれが納得できなかった。団体に所属しているからすごいんじゃなくて、行っている活動と挙げている成果で「すごいね!」と言われる人間になりたい。それができる人間になりたいとずっと思っていました。
だから、同じ志を持つ人に出会いたかった。GLAの学生は個性が強く、良い意味で、私も含めですけど「変人」ばかりです。本当に面白い人ばかりが集まっています。自分の行ってきたことなんて、大したことじゃない。みんなに負けないよう、むしろ高みを目指していきたいと思うようになりました。
GLAでは、もちろん講義はありますが、受け身でない授業も多くあります。同級生とディスカッションする授業も多くて、何を考えているかを聞ける機会がたくさんあります。
「グローバル・リベラルアーツ入門」の授業では、毎回先生が替わり、その先生の専門についての講義を聞いて、グループで授業の感想を議論しました。思考回路がユニークな人ばかりなので、話を聞くのがとても面白いですね。
興味深かったのは、学生一人ひとりで考え方や感じ方が全然違うこと。自分にはない見方や視野を知ることができるので私自身の世界も広がると思いました。考え方だけでなく、バックグラウンドまで踏み込んで話し合える人たちです。
そして、どんな発言でも、受け入れ、否定しない。自分の考えをきちんと言い切ることも大切にするけど、他の人の意見を否定しない。意見が違うと思っても「確かにそういう考え方もあるよね。私はこう思う」と返せる。そういう考え方ってすてきだと思います。
GLAの学生は全員がそういう人たちです。なんでも言える環境、なんでも受け入れてくれる環境。だから、ディスカッションは楽しい時間でした。
普段の学生生活だと、バイトなどいろいろとやることがありますが、ブリティッシュヒルズでの合宿は、朝9時から夜9時まで海外スタディ・ツアーに集中する時間が強制的に与えられます。それは、自分の力では成し得ないこと。本音を言えば海外に行きたかったけど、いい機会だったのかなと思います。
オンラインで英語の講義を受けましたが、Zoom越しで聴覚だけで情報を取り入れるのは難しい。英語に自信がなくて、聞き取れても単語だけで、文として入ってこない。講義の内容が全然理解できないのは苦しかったです。
1日の終わりにはリフレクションをしました。基本、ふたり1組のペアなので、ひとりの学生と深い話ができる。その日に学んだことについて、意見を交わしながら、確かめ合う時間ができたのは、すごくありがたかった。
友達と話すことで、昼間に自分が理解できなかったことでも、疑問を持ち始めて好奇心につながり、もっと学びたいという意欲にもつながる。夕食後なので正直、眠かったけど、学びを深める意味では重要な時間でした。
そして、みんなリフレクションでは本音を言うんです。しんどいってことも、先生にも言える。リフレクションの時間があったからこそ、2週間の学びを続けられたのだと思います。
合宿に来たことは後悔していません。大学の日常生活ではできなかった体験もできたし、GLAの人たちは、授業のディスカッション以外でも真面目な話をします。だから、より深く人について理解できました。
英語はできなかったけど、帰ってからちゃんとやる気になりました。つらかったぶん、むしろ自分のステップアップにつながる良い機会になったと思います。
東日本大震災の翌年、両親に連れられて被害の大きな地域の海岸まで行きましたが、小学校3年生だったのであまり覚えていないんです。ただ、がれきの山とか、海岸に残る生活の跡みたいなものは記憶に残っていて、無力感を幼いながら感じた記憶はすごくあって。
私は人生で無力感を感じることが、たびたびあります。でも、その無力感を感じるからこそ、「無力じゃなくて、微力であろう」と思うようにしています。「無力≠微力」というテーマはずっと持っています。
だから、GLAの研修で双葉町を訪れた時、住民の方に「『何がやれるか』を私たちに聞くのではなく、自分には『何ができるか』を考えて行動してください」と言われて確かにそうだなと思いました。自分にできること、自分が貢献できることはどの分野にもあるはずです。
今まで、海外にすごく興味があったので、日本国内の問題をあまり見てきませんでした。それをちょっと後悔するとともに、何か自分にできること、貢献できることを探したいなと思いました。
今回、双葉町を訪れたことは行動の原動力になります。それは、自分がいかに無知であるかを感じられたからです。福島のこと、震災のこと、自分が生きてきた時代なのに、こんなに知らないことがあるなんて。聞かれても話せないし、伝えることができない。
大きな気づきでした。そして、この言葉が適切か分かりませんが、好奇心が湧きました。もっと知りたいと思いました。好奇心の上に自分の行動が見えてくる。そう思っているので、次のステップにはなりましたね。
東京電力との意見交換会では、前半は専門的な技術の質問や東電を責める発言が中心でしたが、社員の方のメンタルヘルスを気遣う質問もありました。
どこか東電を責める雰囲気になっていても、相手を思いやる質問もできる。それを言える環境がGLAの素晴らしいところです。
そして最後に、特別な思い入れのある南相馬市出身の学生が感想を言ってくれたことで、みんなの心に何かが響いたと感じました。
正直、双葉町を訪れて、施設を見学して、お話を聞いただけでは消化不良だったと思います。意見交換会でも学生の質問や意見が止まらなかった。
質問できなかった学生もいて、大学の方で質問を集約して、追加で聞いてくれることになりました。そんな対応が必要となるほど、質問や感想が出てくる。その想いを伝えられる環境は楽しいなと思います。
入学して3カ月。GLAは60人しかいませんが、まだ名前と顔が一致していない人もいます。その関係性で2週間を一緒に過ごしました。人のいろいろな面が見えてきて、もちろんゴタゴタすることもありました。でも、そういった経験があったからこそ、これからGLAは深まっていくと思います。スタート地点に立てたような気がします。
自分自身の学びとしては、2週間、日常から離れていたのは結構大きかったです。学校に行って、バイトして、NGOに行ってという普段の生活から離れて、一点に集中できる環境にいられました。いかに自分が挑戦できる環境にいるかを気付かされました。普段の日常でもやれることはいっぱいあるし、やりたいと思えば時間はいくらでもつくれる。だから行動を増やしていきたいです。
GLAに入学してからどこか落ち着いてしまっている自分がいて、ちょっと安全地帯にいてしまった気がします。高校時代の行動力はどこに行ってしまったのだろう。この合宿でそう思いました。高校2年生のとき、誰も知り合いのいないNGOに飛び込んだときの私に戻りたい。せっかくGLAという環境を手に入れたのだから、行動を増やしていきたいですね。
入学当初、宮内(孝久)学長が「GLAに限らず、学校はみんなでつくっていく!」とおっしゃっていました。GLAに関係している先生方もそう言ってくれます。だから、「グローバル・リベラルアーツ学部」という組織に属しているという感覚はあまりなくて。1期生という意識が強いかもしれませんが、自分らしい学部、もはや学部じゃないかもしれないけど、自分たちらしい世界を創っていく。その感覚はみんな持っていると思います。当事者意識みたいなものがあると思います。
GLAが、バックグラウンドのひとつになることは、将来の考え方が変わっていくきっかけに絶対なると思います。他の大学や学部よりも自分が変わるきっかけを得られるはず。バックグラウンドのひとつとして、GLAは大きな環境だと思います。(了)