皆さんは、ベトナムといえば何をイメージされますか。年配の方ならば、ベトナム戦争、南北統一、その後の難民流出、そしてカンボジア侵攻など、政治的で「暗い」イメージを持つかもしれません。一方、若い方ならば、昨今のエスニックブームも手伝い、ドイモイ(経済開放)で躍動するエネルギッシュで「明るい」イメージを持つかもしれません。一つの国がこのように相反するイメージを持たれるのは極めて希ですが、それはベトナムの地域性に大きく関係しているからなのです。
ベトナムは東南アジアに位置する農業国です。日本の四国を除いたほどの国土に、約7500万人の人々が暮らしています。丁度天秤棒のような地形をしており、南北両側の面積が広く、地域的特質がはっきりしています。特に、天秤の部分にあたる南部と北部は、同一民族でありながら、全く異なる社会を形成しています。なぜ、このような違いが見られるのか、その生態的、歴史的側面を概観しながら、ベトナムの地域性とは何かを探ってみたいと思います。
現在、神田外語大学専任講師。 専門はベトナム地域研究。
一橋大学大学院博士課程在学中の1992から1994まで、文部省アジア諸国等派遣制度によりベトナム・ハノイ国家大学ベトナム共同研究センターに留学し、農村でフィールドワークに従事する。帰国後も、農村調査を継続し、現在はベトナム北部紅河デルタ2村と南部メコンデルタ1村において定点調査を行う。主なテーマは、ドイモイ以降の農村社会の変容である。
1999年12月9日(木)神田外語大学(幕張キャンパス)において開かれた異文研キャンパス・レクチャー・シリーズで、本学専任講師重久美佐紀氏による講演「ふたつのベトナム─北と南の社会比較─」が行われた。同氏は、同国の地勢、地理、ドイモイ前・後の社会情勢等の簡単な説明後、北部と南部の農村社会、および村落構造について自身の長年にわたるフィールドワークの結果を基に、エピソードを交えて分かりやすく解説した。前回から地域の人々に参加を呼び掛ける一般公開講座スタイルを取っているこのシリーズで、今回は千葉市教育委員会の後援が得られたこともあり、学生よりも一般の参加者が多数を占めた。また本講演後、希望者により開かれたオープン・ディスカッションにおいても十余名の熱心な参加者との質疑応答、意見交換に充実した時が過ぎ、地域の人々との交流に有意義な第一歩となった。
北部(トンキン) | 南部(コーチシナ) |
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亜熱帯気侯 | 熱帯気候表ュ |
紅河デルタ(120 万ha) | メコンデルタ(234万ha) |
世界最古の開拓 | 自由に開拓・移住(18世紀以降) フランスによって水田開発(19世紀未) |
1141人/・(タイビン省) | 589人/・(ティエンザン省) |
人口稠密空間 | フロンティアとしての疎人口空間 |
タイトな社会 | ルースな社会 |