HIVに感染している人々の数は、世界中で増え続けています。これはアフリカ・アジアなどの途上国に限った事実でなく、日本もその例外ではありません。大学生・大学の教員の患者さんも増えています。とても良い治療薬ができて、「すぐに死に至る病」ではなくなったHIV感染症・AIDSですが、その一方で、今でも決して治ることはなく、生涯を通じての治療が必要な病気です。20代の若者が感染すれば、その生涯の治療費は1億円と試算されます。一度感染すれば、健康も社会生活も大きなダメージを受けるHIV感染症ですが、ほんの少しの気遣いでそれを防ぐこともまた可能です。今回の講演では「自分を守る」ことについてお話ししようと思います。
内科医。1993年筑波大学医学専門学群卒業。国立東京第二病院、亀田総合病院、国立国際医療センター、米国トマス・ジェファソン大学内科レジデント、コーネル大学病院にて老年医学科フェローを経て現職。糸井重里氏の「ほぼ日刊イトイ新聞」に「お医者さんと患者さん。」を連載中。著書に「遙か彼方で働くひとよ」「エイズ感染爆発 とSAFE SEXについて話します」(朝日出版社)。
昨年に続き、エイズ防止意識を高めることを目的に、日本におけるHIV感染の実態と「自分を守り、相手を守る」心構えと方法が、内科医である本田氏から語られた(第47回異文研キャンパス・レクチャー・シリーズも参照のこと)。
HIV感染者の数は世界中で増え続けており、アフリカ・アジアなどの途上国だけでなく、日本も含まれている。増加の原因にはさまざまな国毎の事情がある。例えばアフリカの場合、少数民族によっては処女と成功するとエイズが治るという迷信がある。また社会主義国では、ベトナムやカンボジアのようにドラッグ・ユーザーが多かったり、中国政府のように4~5年前まで「国内のエイズ感染者はゼロ」と発表したりといった問題もある。だが、日本のようにエイズに関する正確な知識・認識が足りず無防備であり、公で取り沙汰するのを憚る社会の風潮もあるために、全体数は少ないものの予防が進まず増加傾向をたどるのも深刻だろう。1985年に設立された厚生労働省エイズ動向委員会によれば、感染者はすでに1万人を突破し(2006年)、さらにまだ無自覚の感染者も含めれば数倍になるとみている。
今日とてもよい治療薬ができたため、HIV感染症・AIDSは「すぐに死に至る病」ではなくなった。とはいえ、今でも決して治ることはなく、生涯を通じての治療が必要な病気であることには変わりがない。日本で20代の若者が感染した場合、生涯の治療費は1億円と試算され、自身の健康や社会生活はもちろん、家族・パートナーも巻き込んで大きなダメージを受けることは必至である。
ほんの少しの気遣いでHIV感染は予防できる。基本は定期的な抗体検査を受けることだが、特に女性はリスクに無知・無防備なだけに心したい。