異文研キャンパス・レクチャー・シリーズ

第59回
異文研キャンパス・レクチャー・シリーズ

「カントの『永遠平和のために』を読み直す
-グローバルな公共性の構築に向けて

講師
加藤泰史 (南山大学外国語学部教授)
司会
ギブソン松井佳子 (本学英米語学科 教授・当研究所 所長)
日時
2009年11月10日(火) 17:00~19:00 (開場:16:30~)
場所
神田外語大学(千葉・幕張)
7号館(2階 クリスタルホール)
講師からのメッセージ

グローバリゼーションが進展し、特にIT関連技術や交通手段などが急速な発展を遂げることで人や物や情報はいとも簡単に世界を駆けめぐることができるようになりました。その意味で世界は一気に狭くなったと言えましょう。しかし、狭くなって身近になったにもかかわらず、世界にはなかなか平和が訪れません。世界平和を構築するためには、グローバルなレベルで「法の支配」が確立される必要がありますが、その場合に一体どのようなタイプの「法」が要請されることになるのでしょうか。18世紀末にすでにグローバリゼーションのかすかな予兆を読み取り「永遠平和」を構想したカントに立ち戻りながら、この問題を考えてゆきたいと思います。ドイツの哲学者であるカントの「永遠平和論」と言いますと、海の向こうの、どこかわたしたちには疎遠の思想のように思われるかもしれませんが、意外なことにその思想的影響はわたしたちの生活空間にまでおよんでいます。それが、日本国憲法第9条にほかならないのです。

講師紹介

南山大学外国語学部ドイツ学科教授。1985年、名古屋大学大学院文学研究科哲学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員をへて、1988年から南山大学に勤務。途中、1991年から1993年までドイツ・ミュンヘン大学客員研究員。ドイツの近代および現代哲学を専門として、最近はドイツの応用倫理学や日本哲学にも関心を広げ、「尊厳」・「価値」・「脳神経倫理学と規範意識」などの問題、さらには「グローバル・エシックス」や「ビジネス・エシックス」に取り組んでいる。主な編著書および翻訳に、Kant in der Diskussion der Moderne (Suhrkamp Verlag)、『カント全集 第2巻、第17巻、別巻』(岩波書店)、「現代社会における「尊厳の毀損」としての貧困」(『哲学』第60号)などがある。

講演会報告
(奥島美夏、異文化コミュニケーション研究所)

グローバリゼーションの進展、特にIT関連技術や交通手段などの急速な発展により、人・物・情報がいとも簡単に世界を駆けめぐることができるようになったものの、世界平和の実現には未だ遠い道のりである。これは世界平和の構築を可能とするグローバルな「法の支配」が確立されていないためであるが、そのような性質の「法」とはどのようなものだろうか。

講師は1991~93年にドイツ・ミュンヘン大学で客員研究員として近現代哲学の研究に没頭した。いわゆる「三批判書」で知られるドイツ哲学の大家イマヌエル・カント(1724?1804)は、18世紀末にすでにグローバリゼーションのかすかな予兆を読み取り、「永遠平和論」を提唱していた。この思想は現代日本の生活空間、すなわち日本国憲法第9 条にも影響を及ぼしている。

17世紀以降のヨーロッパで確立された国民国家と国境の概念は、現代世界で巨大化する多国籍企業の存在に圧倒され、一国内の「企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)」を超えた新たな国際規範としての「国連グローバル・コンパクト(GC)」(1999年~)への参加と人権・労働・環境などに関する10原則の支持が求められるようになった。そして今、さらなるテロ抑止や歴史的に「国際法的他者」とみなされてきた少数民族などや個人の権利保護などをめざした「グローバルな法の支配」、すなわち世界市民法による人類の連帯と平和の実現が提唱されているのである。カントの『永遠平和のために』は、「世界市民法は、普遍的な有効をもたらす諸条件に制限されなければならない…外国人が要求できるのは、客人の権利ではなくて訪問の権利である」と最小限の法的制約にとどめつつも、構造的暴力の解消や常備軍の全廃、戦争権の否認などを謳う未来派の思想として、今なお学ぶところが大きいのである。


【参考】

坂部恵・有福孝岳・牧野英二(編)
2000~2006 『カント全集』第2・17・別巻 岩波書店
加藤泰史
2009 「現代社会における『尊厳の毀損』としての貧困」『哲学』第60号
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法人本部広報部 渡邉公代
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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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