本報告では、国際結婚が増加する背景と要因を考え、国際結婚の現状を説明すると同時に問題点にも触れてみたい。日本では国籍や民族、文化の違う人たちが出会い、結婚するケースが増えている。平成18年度(2006年)厚生労働省の人口動態統計の結果によると、妻が外国籍であるカップルが35,993件、夫が外国籍であるカップルが4,161件である。90年代では、韓国・朝鮮籍との国際結婚が多かったが、最近では中国人やフィリピン人との結婚が増えている。
日本人はおおむね多数派(マジョリティ)として生活し、国籍や民族、文化の違う人の存在に気付かないことが多いが、子どもの友だちが外国籍であったり、子どもが外国籍の人と付き合ったりしてはじめて、自分の中で「異なる文化を持つ人」を意識するのかもしれない。国際結婚と聞くと華やかな印象を持ちがちであるが、ことばや生活習慣、価値観や考え方、法律や制度の違いがトラブルとなる場合もある。今回のレクチャーでは、さまざまな具体例を紹介しながら、幸せな国際結婚にはいったい何が必要か考える。今話題の『ダーリンは外国人』(小栗左多里著)を読んだ人、これから読もうと思っている人、そして国際結婚に関心をお持ちのどなたでも、ぜひご参加下さい。
龍谷大学経営学部教授(教育学博士)。専門は英語教育学、移民学。在日コリアン3世だが、2001年に帰化し、日本国籍を取得。韓国名を本名に、コリア系日本人として生きることを選択し「等質社会」をよそおう日本社会に新しい風を吹き込もうとしている。夫がイラン人、娘がアメリカ国籍で、家族国籍独立主義を守っている。大阪市外国籍住民施策委員会委員。
日本では国籍や民族、文化の異なる人々が出会い、結婚するケースが増えている。<親密圏の異文化問題を考える>シリーズ第3回にあたる本講演では、このような日本の国際結婚についてその歴史的・社会的背景から、国際結婚の実情と問題点が指摘された。講師の李洙任氏は在日コリアン三世で、留学先のアメリカでイラン人男性と出会い、国際結婚をしている。よって本講演は、講師自身の経験を交えつつ、当事者の視点で語られた。
これまで日本の国際結婚といえば、西洋人男性と日本人女性の組み合わせがイメージされてきた。しかし、近年の国際結婚の急増の要因となっているのは、日本人男性とアジア出身女性との結婚である。このようなステレオタイプからの脱却が日本の国際結婚を考える出発点となるであろう。
国際結婚をする際、その制度と手続きは国によって異なるが、日本の場合は戸籍制度が前提となっており、外国人配偶者は戸籍がない状況下にある。さらに、重国籍への理解も進んでおらず、対外的には国際社会をアピールしていながら、国内は未だ閉ざされたままであるという日本社会の問題が浮き彫りになった。
ゆくゆくは統合されるであろうアジアにおいて、日本がこだわる国民国家という概念は時代にはそぐわない。今後、異文化を乗り越え、共通の価値観を構築することが重要となるが、国際結婚はその先駆けとして位置づけられる。
講演後の質疑応答では、実際に国際結婚家庭に関わりのある聴講者から戸籍の問題や家族との言語問題、異文化問題について議論が繰り広げられた。すべての質問に対して講師が、専門家として、また多くの困難を乗り越えてきた当事者として明るく力強くメッセージを送っていたのが印象的であった。