今回は働くことについてお話しします。働くって何でしょう。お金稼ぎの手段ですか。野望(笑)をかなえることですか。これらは自分の都合ですね。でも、どうでしょう。仕事が成り立つのは世間の人が必要としているからですよね。すると、人の望みに応えること、自分の資質の中で人が期待を寄せるものを人のために発揮すること、これが仕事だって言えませんか。社会の中で働くことはつねにチームワークであり、よりよい社会を作ることにつながります。これが夢物語ではないことを、当日お伝えいたしましょう(笑)。
1967年12月8日、京都府生まれ。上智大学大学院哲学研究科哲学専攻博士後期課程修了後、上智大学文学部哲学科助手(嘱託)を経て、現在上智大学文学部哲学科講師(嘱託)。本学異文化コミュニケーション研究所研究プロジェクト「ビジネス・エシックス」研究協力者。専門は、近現代ドイツ哲学、ビジネス・エシックス、キリスト教人間学。
将来どのような職業に就くか、自分に向いている仕事はどのようなものかということは、大学生にとって重大な課題である。しかし、そもそも「働く」とはどういうことなのか、単に金銭を稼ぐ手段なのだろうか、夢を実現することなのだろうか。
講師の勝西氏は1967年に京都府に生まれ、現職に就いたのは2009年である。しかし、それまでの間仕事をしていなかったわけではなく、様々なアルバイトを通して社会と関わっていた。つまり、企業に就職することだけが働くことを意味しているのではないのである。
勝西氏によると、働くこととは、他人のために、また他人とともに働くなかで、自己自身に対してさえいまだ隠れている生き方の幅、可能性(capability)を相互に花開かせること、そしてそのことを通じて、社会自身のあり方の幅、可能性を花開かせることであるという。つまり、仕事というものはチームワークから成り立っており、他人との信頼関係が構築されなければ働くことはできないのである。またこうした他人との関係を築く過程で、自分でも気づくことができない自分らしさや適性が見出され、自己実現が可能となる場合もある。そしてやがてはそれが社会への貢献へとつながるのだという。ただし、この人間関係は、人間のつくった現実の社会を超えた、理念としての世界に信頼を寄せることによって達成されるもので、ある程度の距離感も必要であることも付け加えられた。
質疑応答では、外国語大学の学生がしばしば直面する留学と就職活動の問題が取り上げられた。一般的に企業に新卒で就職しようとした場合、大学時代の1年間の留学はリスクになると感じられる。しかし、自己実現という観点から考えると、むしろ留学を通して様々な人とつきあうことによってコミュニケーション能力を養い、世界観を広げることが自身にとってより有益だという力強いメッセージが寄せられた。