グローバル化が進んだ現在、知識や文化の伝播、商品のマーケティングなどにおいて、視聴覚を通したコミュニケーションが中心的な手段となった。翻訳はコミュニケーションにおける重要な位置を占め続けているが、その概念も実践も変化してきた。視聴覚翻訳(AVT)は映画やテレビ、DVDやインターネットなど、スクリーン上のあらゆる言語的変換を包括的に指す用語である。
本講義では「字幕」「吹き替え」「ボイスオーバー」という視聴覚翻訳の主要なモードについての定義づけを行う。日本では字幕が視聴覚翻訳の主要なモードであるため、本講義では特にこのモードについて重点的に述べる。字幕の基本的な特徴に関しては専用のソフトウェアを使い、実際の翻訳例を挙げて論じたい。
講義の締めくくりとして、なぜ視聴覚翻訳を学ぶのか、どこで視聴覚翻訳を学ぶのかという点に関してディスカッションを行う。
ディオニシオス・カプサスキス博士は翻訳者、字幕翻訳家、編集補佐として20年間稼働してきた。字幕とボイスオーバーについて、イギリス各地の大学院で指導を担当してきており、現在はロンドンにあるローハンプトン大学大学院・視聴覚翻訳修士課程において翻訳上級講師として勤務している。政治、字幕翻訳、翻訳者教育、および20世紀のフランス文学に関する著作がある。
6月14日、イギリス・ローハンプトン大学で映像翻訳を教授していらっしゃるディオニシオス・カプサスキス先生の講演会が行われました。テーマは「映像翻訳」です。講演に際し、通翻課程のメンバーが、同時通訳を行ないました。
カプサスキス先生はギリシャ人ですが、在英15年とのことで、きれいなブリティッシュイングリッシュを話されます。話すスピードも、ルース大使ほどゆっくりではないものの、決して早口ではなく、同時通訳をする上ではほぼ理想的なスピーカーです。
印象に残ったお話をいくつか箇条書きにします。
講演が終わった後、時間を15分近く延長して(すみません)、合計30分近くのQ&Aタイムを取りました。特に通訳担当の通翻生から質問が続出していました。なるべく一般の方からも質問をお受けしようとしたのですが、結果的に2人ぐらいだったでしょうか、質問をしていただいたのは。もっと手が挙がれば、通翻生の質問を削ってでもお時間をお取りしたのですが……。
最後に私から「翻訳には『賞味期限』はあると思われますか?例えば日本にはシェイクスピアの翻訳がいくつもありますが、原作は1つのバージョンしかないのに、なぜ翻訳は「究極のバージョン」がないのでしょうか?」と質問しました。
カプサスキス先生のお答えは「それは、言葉が生きているからです。これからも時が経つにつれて、新たな翻訳が出てくるでしょう」とのことでした。私も内心同じことを考えていたので、非常に嬉しく思いました。
また、「通訳法Ⅲ」の受講生を引率して会場にいらしていた、通訳者の曽根和子先生からも、同通を行なった通翻課程の学生たちに対し、お褒めの言葉を頂戴いたしました。本当に良くやったと思います。私でも尻込みするような内容の通訳でした。