三十代の十年をドイツで暮した。子育てと絵本の朗読を通して仲間と出会い、人々の情けに触れた。
帰国して七年、研究・教育の傍ら日独間の通訳として、また実務翻訳者としての活動を続けている。以上の経験に基づき、想像の力について語りたい。
イメージは脳の第一言語であるー 来聴者の参加できる簡単なワークを行い、このテーゼの意味を確かめよう。自由に成長を続ける若い魂が未来へ一歩踏み出す機会となれば幸いである。
1963年長野県生れ。早稲田大学・大学院で哲学を専攻。1995年~2005年ドイツ留学。哲学博士(Dr. phil. トリーア大学)。現在、早稲田大学・明海大学・東京薬科大学・長野大学・小諸看護専門学校で哲学・倫理学・コミュニケーション技法を担当。ブザン教育協会認定「研修マインドマップ・アドバイザー」。通訳・翻訳者(独日)。
本講演では、「イメージは脳の第一言語である」という主張を中心に据え、想像すること、イメージを持つことが、コミュニケーションに大きな力を発揮し、また心をつなぐ力にもなるということについて語られた。
講師の中澤氏はドイツの啓蒙哲学を専門とし、10年間ドイツで研究生活を送った。そこでドイツの子供の歌に出会い、心をつなぐ想像の力に気づく。帰国後は、日本語コミュニケーション教育や翻訳・通訳に携わっており、ここでもイメージが大きな力を持っていると実感している。
講演では、実際に来聴者に(1)想起、(2)イメージショット、(3)再・認識という三つのワークが実践された。これらを通し、個人にはすでにイメージが構築されており、あらゆる言語的なメッセージや抽象的概念はすべて形にあらわすことができること、さらにそれらは関心をもち意識を向けなければ引き寄せることができないことが示された。そして、こうした潜在意識を解放させるためには、一歩を踏み出すことが大切であると説かれた。将来こうなりたい、またはこうありたいというイメージをもち、それに近づくために一歩を踏み出すことで新たなパースペクティブが開かれ、やがてはそれが自身の成長につながるのだという。加えて、その足かせとなりうるネガティブな感情をいかにコントロールするかについても伝えられた。感情を動かす要素には、ことば、姿勢、フォーカスが挙げられ、この三要素を効果的に使うことによって、感情をコントロールすることができるという。
質疑応答では翻訳・通訳の観点から質問が寄せられた。翻訳・通訳とイメージ化という観点から、母語から外国語に変換するほうが、イメージ化が容易なのではないかという疑問が挙がった。これに対して、通訳・翻訳には言語化という段階も存在しており、言語化は母語に変換するほうが容易であると考えられるため、どちらも困難さは同じなのではないかというのが中澤氏の見解であった。