異文研夏期セミナー

第11回 異文研夏期セミナー

「異文化コミュニケーション-新パラダイムへの展望」

開催日時
2001年9月3日(月)~9月5日(水)
ブリティッシュヒルズ
プログラム
9/3 (月)
基調講演
「日本人・日本文化とグローバリゼーション」
河合隼雄(京都文教大学学術顧問、前国際日本文化研究センター所長・臨床心理学)
<予定トピック>
・日本人とアイデンティティ
・「中空構造」をもつ日本人の心性と異文化接触
・日本文化とグローバリゼーション
・異文化コミュニケーション研究における新パラダイム設定への展望
<進行予定>
約1時間の講演に続き、約1時間の質疑応答を行う。
懇親会
9/4 (火) - 午前 -
対談
「グローバリゼーションと異文化コミュニケーション」
河合隼雄 (京都文教大学学術顧問、前国際日本文化研究センター所長・臨床心理学)
石井米雄 (神田外語大学学長・東南アジア史)
<予定トピック>
・グローバリゼーションと文化変容・異文化コミュニケーションをいかに捉えるか
・日本・アジアのコンテキストをいかに踏まえるか
・日本文化・アジア文化研究の課題と展望
・日本の異文化コミュニケーション研究の課題と展望
<進行予定>
約1時間半の対談に続き、質疑応答・自由討論を約1時間行う。
本対談は、文部科学省メディア教育開発センターの協力を得て、SCSを通じ全国の大学へ中継。
懇親会
9/4 (火) - 午後 -
分科会・全体会議
「異文化コミュニケーション研究の新パラダイム」
基調講演と対談を敷衍する形で、分科会(2時間)を設け、参加者全員による自由闊達で徹底した論議を行います。次いで、各分科会での論議を全体会議(1時間)にフィードバックし、全体討論によって、新たなパラダイムを展望していきたいと思います。
分科会1 <日本文化と異文化コミュニケーション>講師:石井敏(獨協大学) 「日本における研究の回顧と新パラダイムの展望」

コメンテーター:遠山淳(桃山学院大学)
司会:久米昭元(立教大学)

分科会2 <グローバリゼーションと文化変容> 講師:竹田いさみ(獨協大学) 「東アジア世界とグローバリゼーション」

コメンテーター:永井浩(神田外語大学)
三輪眞木子(文部科学省メディア教育開発センター)
司会:小林登志生(文部科学省メディア教育開発センター)

本分科会は文部科学省メディア教育開発センターの「国際遠隔」共同研究プロジェクトの一環として、SCSを通じて全国の参加大学・機関へ双方向でつなぐ予定。
全体会議
<異文化コミュニケーション研究の新パラダイム>
分科会1および分科会2の講師・コメンテーター・司会者
9/5 (水) - 午前 -
研究発表
研究発表・司会者 タイトル・発表者(所属機関)
研究発表1
司会:御手洗昭治
(札幌大学)
「なぜ討論が雑談になるのか─日本人小集団討論にみる主導権獲得の影響要因─」
徳井厚子(信州大学)
「日本人はなぜよく謝るか─感謝場面に見られる謝罪表現から─」
北綾子(日本女子大学大学院生)
「日本語コミュニケーションにおける「言いさし-割り込み」の連鎖」
荻原稚佳子(早稲田大学)
研究発表2
司会:松井佳子
(神田外語大学)
「日本人の社会行動様式-社会人類学的アプローチ-」
小松照幸(名古屋学院大学)
「小学生を対象とした多文化交流プログラムにおける学習活動と児童の意識変化」
森泉哲(名古屋産業大学)
「日本における異文化理解教育とは何か-教育システムのモデル化を目指して-」
海谷千波(獨協大学大学院生)
研究発表3
司会:松井佳子
(神田外語大学)
「在外日本人の異文化理解・受容に関する一考察-マレーシアにおける青年海外協力隊員の事例を通して-」
松永典子(立命館アジア太平洋大学)
「エノラ・ゲイ展論争にみる日米原爆認識のギャップとこれから-日本人の多様な沈黙の意味-」
手塚千鶴子(慶應義塾大学)
講師略歴
河合隼雄
京都文教大学名誉教授、前国際日本文化研究センター所長。専門は臨床心理学。2000年度文化功労者顕彰。京都大学理学部卒業後、スイスのユング研究所より、日本人初のユング派精神分析家の資格を取得。
主要な著作は『河合隼雄著作集』全14巻 岩波書店 1997-1999年にまとめられ、最近の著書には『日本人の心のゆくえ』岩波書店1998年、『こころの処方箋』新潮社1998年、『「日本人」という病』潮出版社1999年、『中空構造日本の深層』中央公論社1999年、『紫マンダラ-源氏物語の構造-』 小学館2000年、『未来への記憶-自伝の試み-(上・下)』岩波書店 2001年、『日本人の心』潮出版社2001年など。
石井米雄
神田外語大学学長。専門は東南アジア史。
東京外国語大学中退後、外務省入省。京都大学東南アジア研究センター所長・教授、上智大学アジア文化研究所所長・教授を歴任。2000年度文化功労者顕彰。
著書に『タイ近世史研究序説』岩波書店1999年、『上座部仏教の政治社会学-国教の構造』創文社 1975年など。
石井 敏
現在、獨協大学外国語学部教授(スピーチ・コミュニケーション専攻)。
米国ノースウェスタン大学修士課程修了。
論文に"Tasks for Intercultural Communication Researchers in the Asia-Pacific Region in the21st Century"獨協大学国際交流センター『国際交流年報』1997年、“Developing a Buddhist En-Based Systems Paradigm for the Study of Japanese Human Relationships”国際日本文化研究センターJapan Review 1998年、「異文化間コミュニケーション能力とは何か-構造と構成要素のモデル化の試み-」獨協大学『外国語教育研究』2001年。 共著に『異文化コミュニケーション・ハンドブック』有斐閣1997年、『異文化コミュニケーションの理論』有斐閣2001年など。
竹田いさみ
現在、獨協大学外国語学部教授(国際政治学、オーストラリア政治・外交研究専攻)。
シドニー大学大学院博士課程修了。
著書に『移民・難民・援助の政治学』勁草書房1991年、『物語 オーストラリアの歴史―多文化ミドルパワーの実験-』中央公論新社2000年。編著書に『オーストラリア入門』東京大学出版会1998年、『新安全保障論の構図』勁草書房1999年。論文に「米ブッシュ政権の外交・安全保障政策を読む」『世界週報』2001年3月20日号、「日本の対ミャンマー外交の4原則とは」『外交フォーラム』2001年5月号など。
セミナー報告
報告書
奥島美夏(研究所専任講師)

第11回目を迎えた当セミナーは、過去十年間を振り返るひとつの節目として、また21世紀最初のセミナーとして、「異文化コミュニケーション」とは何かという根源的な問いを見直すことを趣旨としている。この用語が日本の大学機関で使われてすでに30年になるが、研究分野では残念ながら今もアメリカ中心の枠組みにとどまる傾向にあり、また内容も実践技能面に偏りがちである。したがって、心理学・国際関係学・文化人類学などとの学際的な交流を深めることによって思想・歴史・理論などの厚みを研究にもたせ、またグローバリゼーションやIT革命といった未知のうねりの中でコミュニケーションの様態がどのように変化し問われてゆくのかを見極めることが、我々の課題となっている。

こうした研究の蓄積と時代の変化を踏まえながら、より学際的かつ広い観点から今後の異文化コミュニケーション研究の方向性を模索するために、例年とは若干異り、一貫して上記の基本テーマを追及するプログラムを設定した。

まず、現在の我々をとりまく状況にたちかえり、個人・日本・アジア・現代社会など根本的要素の再検討を促すべく、基調講演および対談をプログラムの筆頭に据えた。トピックが非常に大きく十分な理解と議論のためには時間の制約もあって、参加者にはあらかじめ講師の著書『中空構造日本の深層』(中央公論新社、1982)その他数点が必読文献として指定され、河合・石井両氏の非常にわかりやすくテンポのよい講演に会場は終始沸いた。力説された点は、多様な人間が均衡を保ちつつ集まる「中空構造hollow center」の日本人的気質を、覇者統合型の「中心構造power-center / principle-center」をもつ西欧文化圏に対して説明・主張してゆくこと、そしてそのためには圧倒的な影響力を持つグローバリゼーションの波に対抗できるだけの力をつけることの必要性であった。すなわち、深い言語力、知識のみでなく相手を納得させるだけの積極性、宗教理解などの習得がコミュニケーションの鍵であり、また異文化理解に欠かせない想像力を養うことも重要となるのである。質疑応答では茫漠とした日本的「文化」「個性」を中空構造と捉えるのは妥当か、そうした特質は全国でどの程度共有されているのか、教育の現場では具体的にどのように指導すべきか、などの建設的な質問やコメントが続出した。これらの講演・対談の詳細については、年内に講談社から刊行される予定である。

さらに、そうした発議を踏まえてより具体的な討論を行なうために、分科会では二つのテーマに分かれ、異文化コミュニケーション論とグローバリゼーションについて各会の講師が問題提起し、その後の約1時間を質疑応答とした。

分科会1は『異文化コミュニケーションの理論―新しいパラダイムを求めて』(有斐閣、2001)の編者でもある石井敏、久米、遠山の三氏のもとに進められ、数年前から脱アメリカが提唱されているこの分野の発展のために、新パラダイムの一例として多重構造をなす日本文化と異文化コミュニケーションがリンクするレベルをモデル化し、日本的ないしアジア的コミュニケーションのあり方を提起した。

一方、分科会2では、国際関係論の専門家竹田氏から東アジア世界を中心とした政治経済面での過去20年にわたる動向についての解説がなされ、1980年代にはまだ国民国家の枠組が意識された「国際化」「異文化(間)コミュニケーション」といったキーワードが、90年代以降は「グローバリゼーション」「トランスボーダー」といった脱地域化現象へと移っていることが指摘された。コメンテーターからはグローバリゼーションからはみ出したローカルまたはインフォーマルな側面の再評価や、固定的モデルとしてでなく刻々と変化するプロセスとして相手を捉える異文化理解のあり方などが提起された。これら二つの分科会の議論はその後の全体会議にて報告され、今後どのような概念をうちたてるべきかについての模索がなされた。

このように、セミナーの大テーマについてできるだけ自由闊達な意見交換ができるよう、夕食以降の時間帯や3日目の研究発表は個々人の裁量にゆだねられ、議論や今後の研究活動の打合せが諸所で行なわれた。

また初日の懇親会では、河合氏によるフルート演奏などのパフォーマンスも好評を博した。

当プログラムのもうひとつの特徴は、今回で2回目となった文部科学省メディア教育開発センター協力によるSCS放映(全国の提携大学への衛星中継)であり、これを通じて基調講演・対談・分科会2は遠隔地の視聴者も参加しての質疑応答が行なわれた。今後、このような情報通信技術(ICT)を通じた教育プログラムや国際会議には、いっそうの開発・実施が期待されるところである。

なお、詳細な異文研夏期セミナーの報告は、追って当研究所の紀要『異文化コミュニケーション研究』(14号)に掲載の予 定であるが、講師・コメンテーター・司会、SCSのコーディネーターおよび全参加者の皆様に改めて感謝し申し上げたい。

セミナーの様子
報告書
奥島美夏(研究所専任講師)

ようこそ!異文研夏期セミナーへ!


基調講演 「日本人・日本文化とグローバリゼーション」
河合隼雄
(京都文教大学学術顧問・前国際日本文化研究センター所長・臨床心理学)
懇親会(夕食)

「はじめまして、所長の和田です」

河合先生と奥島(本研究所講師)との
フルート演奏♪

超・豪華ディナー!

対談
「グローバリゼーションと異文化コミュニケーション」
河合隼雄
(京都文教大学学術顧問・前国際日本文化研究センター所長・臨床心理学)
石井米雄(神田外語大学学長・東南アジア史学)

漫才(失礼!)のようなテンポの良さ!
対談の内容は講談社より本になります。(年内発行予定、お楽しみに)

SCSを通じて全国の大学へ中継。
(協力:文部科学省メディア教育開発センター)

会場からは、笑いが。

SCSの車載局
(アンテナ付の大きな車です!)

分科会1<日本文化と異文化コミュニケーション>
石井敏(獨協大学)「日本における研究の回顧と新パラダイムの展望」

コメンテーター:遠山淳(桃山学院大学)
司会:久米昭元(立教大学)

分科会2<グローバリゼーションと文化変容>
竹田いさみ(獨協大学)「東アジア世界とグローバリゼーション」

コメンテーター:
永井浩(神田外語大学)
三輪眞木子(文部科学省メディア教育開発センター)
和田純(神田外語大学)
司会:
小林登志生(文部科学省メディア教育開発センター)

全体会議
<異文化コミュニケーション研究の新パラダイム>
研究発表 3つの会場に分かれて発表。
"研究発表1司会:御手洗昭治(札幌大学)

「なぜ討論が雑談になるのか─日本人小集団討論にみる主導権獲得の影響要因─」徳井厚子(信州大学)
「日本人はなぜよく謝るか─感謝場面に見られる謝罪表現から─」北綾子(日本女子大学大学院生)
「日本語コミュニケーションにおける「言いさし-割り込み」の連鎖」荻原稚佳子(早稲田大学)

"研究発表2司会:松井佳子(神田外語大学)〔Trophy Room〕

「なぜ討論が雑談になるのか─日本人小集団討論にみる主導権獲得の影響要因─」徳井厚子(信州大学)
「日本人の社会行動様式-社会人類学的アプローチ-」小松照幸(名古屋学院大学)
  「小学生を対象とした多文化交流プログラムにおける学習活動と児童の意識変化」森泉哲(名古屋産業大学)
  「日本における異文化理解教育とは何か-教育システムのモデル化を目指して-」海谷千波(獨協大学大学院生)

"研究発表3司会:青山治城(神田外語大学)

「在外日本人の異文化理解・受容に関する一考察-マレーシアにおける青年海外協力隊員の事例を通して-」松永典子(立命館アジア太平洋大学)
「エノラ・ゲイ展論争にみる日米原爆認識のギャップとこれから-日本人の多様な沈黙の意味-」手塚千鶴子(慶應義塾大学)


また来年お会いしましょう。

学校法人佐野学園:理事長室・いしずゑ会
〒101-8525 東京都千代田区内神田2-13-13
TEL: 03-5289-8828

法人本部広報部 渡邉公代
TEL:03-3258-5837

写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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