近年の日本では、「こころの豊かさ」「癒し」「救い」といった言葉がひんぱんに使われ、一種のブームのごとき感すらあります。ごく自然に考えれば、その文脈のうえでは、宗教との関わりも想定されていて当然でしょう。しかし、長きにわたって、「日本人には信心はあっても、宗教はない」と言われ、また、オウム真理教事件などの記憶もあり、自分のこころの拠り所をどう築いていけばよいのか、人々のこころは落ち着かないのが実態だと思われます。さらにそこへ、イスラム原理主義を標榜するテロの衝撃も加わりました。
そこで、今回のセミナーでは、改めて「人間にとって宗教とは何なのか」「日本人と宗教とはどのように関わりあうのか」といった根元的な疑問を問い直してみたいと思います。ひとはなぜ宗教を求めるのか、宗教における救済とはなにか、宗教が生活を規定するとはどういうことなのか、宗教的原理主義とは何か、信仰と狂信とは分けうるのか、宗教と社会や教育との関わりをどう考えればよいのか、宗教と歴史や時間的観念はいかに関わりあってきたか、などの疑問をじっくりと考えるなかから、世界的には「特異」とも言われる日本人と宗教との関わりを顧みる機会にできれば幸いです。
ゲストには、山折哲雄先生(国際日本文化研究センター所長)をお迎えし、基調講演をお願いします。次いで、基調講演を敷衍していただく形で、山折先生と石井米雄本学学長に公開対談をお願いし、質疑と自由討論を通じて参会者とも議論を深めていきたいと思います。なお、これらは、文部科学省メディア教育開発センターの協力を得て、SCSを通じ全国の大学へ中継の予定です。