神田外語の未来 挑戦心のある入学生と出会うために

グローバル・リベラルアーツ学部誕生前夜史2 金口恭久 神田外語大学副学長『学部設立の現場から』

神田外語大学では令和3(2021)年4月に「グローバル・リベラルアーツ学部(Global Liberal Arts学部、以下GLA学部)」を新設します。平和の構築に寄与できる若者を育てるためのGLA学部独自のリベラルアーツ、求める学生と出会うための選抜試験、そして開学後の教育の方針について副学長の金口恭久に取材をしました。(文中敬称略)


■ 必修科目でデータを読み解く力を養う

1年次前期に「グローバル・チャレンジターム」と「海外スタディツアー」によって学びへの動機を獲得した学生は、1年次後期から3年次前期までを千葉・幕張のキャンパスで学ぶ。3年次後期にニューヨーク州立大学(SUNY)への留学を控えたこの期間は学生がじっくりと腰を据えて力を蓄える重要な時間と言える。

まず、英語学習である。SUNYにおいて英語で専門科目を学ぶために必要な英語運用能力を養い、さらには多様なテーマの理解と批判的思考(クリティカル・シンキング)の力を伸ばしていく。ここで生きるのが、神田外語大学が培ってきた教育の財産である。少人数制のアクティブラーニングや自立学習施設のSALC(Self-Access Learning Center)など学生の学びをきめ細かにサポートする仕組みだ。

そして、学部の専門科目であるグローバル・リベラルアーツである。中心となるのは、人文社会系の3領域(「Humanities(人間と文化)」「Societies(社会と共生)」「Global Studies(グローバル・スタディーズ)」)。学生は過去・現在・未来にわたる人間の営みを複数の視点から学ぶことで、解決すべき社会的課題を理解するための基礎的な教養を身につけるのだ。

リベラルアーツ(Liberal Arts)とは本来、「自由を求める技」という意味であり、自ら考え、判断し、行動するために必要な学問である。そのなかにはいわゆる文系科目だけでなく、理系科目も含まれる。グローバル・リベラルアーツという看板を掲げる以上、その根幹は避けて通れない。

神田外語大学は外国語学部の単科大学であり、総合大学と比べると理系科目の充実度には限界がある。金口をはじめ、GLA学部の構築に当たった職員たちは、その弱点に固執することなく、「GLA学部のリベラルアーツとは何か?」「GLA学部の学生に必要な理系教育とは何か?」を模索した。その議論はGLA学部にふさわしい理系科目を導いたと金口は説明する。

「外国語学部を志望する学生は数学に苦手意識を持っています。しかし今、企業においてもマーケット調査などで数理的な思考力やデータ解析の能力が求められます。これからの社会を生きていくうえで、データサイエンスやビッグデータの解析などは絶対に外せないし、そこから逃げるわけにはいかない。こういった科目を『基礎教養科目B群』に設定しました。普遍的な教養と、これからの社会を生きていくための教養の集合体こそがGLA学部のリベラルアーツであると定義したのです」

GLA学部の選択必修科目である基礎教養科目B群は6科目が用意され、学生は3科目6単位を履修しなければならない(図表)。

【図表:GLA学部の基礎教養科目B群】


5G、ビッグデータ解析、AI、センシングなどの情報通信技術の発達により産業界はDX(デジタル・トランスフォーメーション)時代へと突入している。技術革新によって社会経済が変化すれば、その問題解決の手段も同様に変化しなければならないはずだ。社会課題の解決に寄与する人材を育成するからこそ、データと向き合える基本的な術を身につけさせる。それがGLA学部のリベラルアーツの在り方なのである。


■ ふたたび意識を高めるSUNYへの留学

英語運用能力、人文社会系3領域から成る教養、そしてデータ分析に関する理系の学び。バランスの取れたリベラルアーツを学んだうえで、3年次後期に半年間留学するのがニューヨーク州立大学(SUNY)である。

SUNYは64のキャンパスを持つが、GLA学部ではその7校と協定を締結した。選定したのは、神田外語大学と同規模の大学。平和研究や都市問題、アジア研究、環境問題といったGLA学部の学生が志向する学問領域を得意とする大学ばかりである。SUNYおよび7校の選定に当たっては、神田外語グループが培ってきた海外の大学とのネットワークと各大学の教育内容に関する知見が生かされた。

GLA学部の学生たちはSUNYで大きな壁に直面するだろう。1年次に体験した世界の現実。それを理解し、課題解決に貢献したいという想いで学び続けてきた幕張での日々は確実に学生に自信をもたらすはずだ。だが、SUNYで出会う世界の同世代の若者たちとの議論、そして高度な専門科目を英語で学ぶ日々は決して容易いものではない。だが、その厳しい体験こそが、学生たちにさらなる問題意識と学び続けるモチベーションをもたらすのである。


■ 面接を通じてGLAと学生のミスマッチを防ぐ

「平和の構築に貢献できる人になるために大学で学びたい」という熱い想いを持った高校生たちを迎えるGLA学部。その学びやでは、神田外語大学が培ってきた教育のノウハウと教職員の知見を総動員し、熱を帯びた教育が繰り広げられるだろう。だが、GLA学部での学習を継続することは決して容易なことではない。GLA学部では令和2(2020)年10月から選抜試験を開始したが、その全てに面接試験を設けた。面接での評価は点数化され、選抜の重要な要素となるのである。なぜ、そこまで面接を重視するのだろうか?

「GLA学部はとがったカリキュラムを持った学部なのでミスマッチを防ぎたい。どこでもよいから大学に入れればいいという学生には、GLA学部のカリキュラムをやり遂げるのは難しいと思います。本当にこの学部を目指しているか、どれだけ意欲があるかなど、GLA学部とのマッチングを見るために、面接を重視しています。面接試験では『平和のために自分の力を尽くしたい』という言葉が数多くの受験生から聞かれました。受験生たちはGLA学部に関してパンフレットなども丹念に読み込み、学部のコンセプトを理解しているようです」

面接の過程では、受験生の学力やリテラシーに加え、行動力、問題意識の高さなども明らかになる。とりわけ大学教員を相手に議論をするとなると、真剣に準備をし、考えを深めなければ試験にすら臨めない。そして、面接試験は筆記テストでは測れない受験生のさまざまな能力を試す場であるのだ。では、金口はGLA学部にどんな学生を求めているのだろうか?

「好奇心があって、チャレンジ心があって、伸びる意欲のある子を育てたい。自分の限界も分かりながら、高い目的意識を持って努力を重ねられる。よい意味での常識を持って取り組める子だと思います。そういう子を一人でも多く入学させて、育てていきたいと強く感じます」


■ 60人の少人数制で学生の個性を引き出す

新たなコンセプトの学部であり、かつてない教育内容だからこそ、開学後は学生の反応を取り込みながら、柔軟な姿勢で教育内容を高めていきたいと金口は語る。

「GLA学部を受験する高校生を見ていると、目的意識が高い子が圧倒的に多いですね。将来について聞くと『貧困の問題をなんとか解決したい』『国際機関で働きたい』『教育で人をつくりたい』といった答えが返ってくる。外国語学部とは明らかにタイプの違う高校生が受験しています。だからこそ、我々も器をつくって終わりではなく、GLA学部の学生が求めるものをくみ取りながら、用意した教育とうまくミックスさせていきたい。学生の満足度はきちんと確認すべきです。仕組みだけが空回りしては意味がありませんから。当然、変えていくところも出てくると思います。教育の実施状況を俯瞰(ふかん)して見ていきながら、学生の意欲をさらに駆り立てるものにしていきたい。学生と一緒にこの学部を育てていきたいですね」

そこで生きるのが、GLA学部の定員が60人という少人数であることだ。

「こういう学部は200人、300人の規模だとうまくいきません。60人という規模だからこそ、個性が埋没せずに、とがった人を育てられる。学生一人ひとりの希望を聞き、一人ひとりの個性を大切にできるのです」

60人で始まるGLA学部。小規模でも、存在感のある、尖った、光った学部をつくり、真の意味で平和に寄与するために学び続けられる人間を育てる。そのためには、従来の大学教育の在り方にとらわれない柔軟な姿勢と大胆な施策が必要なのである。

理念を持って学部をつくり、その考えに合った学生を受け入れ、教育する。GLA学部は改めて高等教育の本来あるべき姿を提示したと言えるだろう。だが、真価が試されるのは開学後である。金口はGLA学部での教育への想いをこう語る。

「GLA学部を選んで入学して、そこで学ぶ学生にとっては一期一会で人生そのもの。我々には子どもたちへの責任がある。この大学、この学部に入ってよかったと思えるものにしていかなければいけない。そう、強く思っています」

外国語と異文化を理解し、平和の構築に貢献できる若者を育てる。その実現に向けた教育改革の連続から生まれたGLA学部。そこに集う学生たちは、神田外語大学に新たな息吹を与え、変化と進化を続ける伝統を引き継いでいくだろう。建学の理念を見失わず、学生の本心に耳を傾け、常識にとらわれず提供すべき教育を実現する。GLA学部の挑戦はまさに始まろうとしているのだ。


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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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