異文化理解の先駆者たち

第9回 スターリング・M・プラタ『自立した学習者の育成が国の競争力を高める』

学生自身が自己評価によって学力を高める
「ポートフォリオ評価」を実践する

平成10(1998)年7月に博士号を取得し、母校のデ・ラ・サール大学で英語教科を教え始めたプラタは、学生の評価法に関する調査研究にも力を入れていった。その背景には、「テストのための英語教育」を改革しなければならないという問題意識があった。学生の成績は、教員の評価でもあり、また学校の評価にもなる。政府が実施する統一テストの試験問題は選択式である。そのテストでよい点を取るために、教員たちは授業の内容を立案する。社会で求められるコミュニケーション力、文章作成力を育成するためではないのである。

平成12(2000)年4月、プラタは東南アジア教育大臣機構(SEAMEO)の地域言語センターから「言語に関する試験と評価における専門家」としての認証を得て、シンガポールにおける英語教育の改革に関わる経験も積んできた。

平成13(2001)年、デ・ラ・サール大学のプラタが教える学部で、英語の科目を履修する学生たちが、期末テストを受けたくないと言い出したことがあった。そこでプラタは、「ポートフォリオ評価」という評価法の導入を学部に提案した。

大学のシラバスには、それぞれの科目に学習を通じた到達目標が明記されている。一般的には、学期末に教員が試験を行って学生の到達度合いを評価する。一方のポートフォリオ評価は、学生自らが学習した内容を常に振り返りながら、自分自身を評価し、到達目標に向かって学力を高めていくという手法だ。

ここで言う「ポートフォリオ」とは、目標に向かって行った学習から生まれたノート、プリント、発表資料、レポートなどの成果物をファイリングしたものを指す。この手法を実践したプラタは、学生のポートフォリオがルールに沿って作られているか、どこまで完成しているかを基準に学生の評価を行った。プラタはポートフォリオ評価を通じて得られる成果について次のように説明する。

「学生はクラスの外に出てしまえば、教員から自分の学習が十分かどうかを指導してもらえません。学生が自身のポートフォリオを持ち、自分を評価できれば、教員がいなくても自立して学べます。

学生は自分の長所を理解できませんが、弱点は知っています。弱点を克服するには、まず自分の目標や方向性を設定する必要があります。目標を達成するために、自分の能力を向上させる方法を身につけ、そして自分自身を評価する方法を学ぶのです。それは学生が自らの学習に責任を持つことでもあります。

社会に出て、企業で業績を挙げていくためには、自分自身で課題を発見し、解決する手法を見いだし、その結果も評価しなければなりません。学生は社会で働くことを前提に学んでいるのですから、学校でも社会の評価方法と共通性のあるものを採用すべきだと私は考えます」(2/4)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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