神田外語の未来 第4話 副学長の視点 異なる世界を知り、自らの道を問い掛ける 神田外語大学 副学長 金口恭久

コロナ禍の世界で平和を学ぶ「グローバル・リベラルアーツ学部 海外スタディ・ツアー2.0 リトアニア研修」

令和3(2021)年4月に開設された神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部(以下、GLA学部)では、令和4(2022)年2月14日からの8日間、リトアニア研修を実施しました。世界の平和構築に貢献できる人材教育を理念に掲げ、1年次に行う海外研修を4年間の学びの原動力とするカリキュラム設計をしたGLA学部。直面したのは、新型コロナウイルスの感染拡大によって海外への渡航が難しい時期に学生の国際経験をどう構築するかという難題でした。GLA学部の教育内容の構築に深く関わり、リトアニアにも同行した神田外語大学副学長の金口恭久に研修実施の経緯、学生の成長、そして今後の展開について取材しました。(文中敬称略)


[出発前:2022年2月12日@神田外語大学幕張キャンパス]

■ 海外派遣を実現し、現地をリアルに体験させたい

令和3(2021)年4月に開設された神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部(以下、GLA学部)では、1年次の7月に「海外スタディ・ツアー」の実施をカリキュラムに組み込んでいる。1期生も4カ国・地域(リトアニア、インド、マレーシア・ボルネオ、エルサレム)からひとつを選び、2週間程度の現地研修で世界の課題を肌で感じ、1年次後期以降の学びを構築していく予定だった。だが、新型コロナウイルスの感染拡大によって海外派遣は中止を余儀なくされた。

代替のプログラムとして、6月末から7月半ばにかけて「海外スタディ・ツアー2.0」が、神田外語グループの国際研修施設「ブリティッシュヒルズ」と神田外語大学幕張キャンパスで実施され、学生たちは海外スタディ・ツアーの派遣先である4カ国・地域の全てへとオンライン留学した。このプログラムによって学生は単位を修得したものの、金口は海外での研修の必要性を感じていた。

「オンラインで学べるメリットは大きいのですが、現地に行かないと分からないことがたくさんあります。オンラインで学び、現地の学生ともオンラインで交流しました。次は現地を実際に訪れて自分の目で確かめ、リアルで交流する。それをなんとか実現したいと考えていました」

学生たちはすでに単位を修得しているので、海外研修に行けるとすれば、1年次の春か2年次の夏の長期休暇中になる。金口はオンライン留学の直後に、神田外語グループの理事長、佐野元泰の同席のもと、学生の意見を聞く場を設けた。学生たちからは「自分たちは1期生として学んでいます。来年の4月に新1年生が入ってきて予定通り7月に研修を行うとして、海外に行くのが後輩よりも遅れるのは絶対に納得できない」という本音が語られた。

学生の強い想いを直接聞いた金口は1年次の春休みに標準を合わせて10月から海外研修の準備を本格化した。渡航先は当時、海外からの入国者の待機期間のなかったリトアニアに絞った。現地の協定校であるヴィータウタス・マグヌス大学からはリトアニアの独立記念日である2月16日を含めた日程を提案された。金口は独立記念日にリトアニアを訪れる意義についてこう語る。

「中世リトアニアはヨーロッパでも大国だった歴史もあり、国民は自国の伝統に誇りを持っています。一方で、近代には地勢的なことからソ連やドイツに攻められ、国が消滅したり、ソ連に従属するなど苦難の歴史もある。独立記念日を現地で体験できれば、独立と平和を自らの手で守ってきたリトアニアの現在と歴史の両面から、学生たちが平和を築くうえで大切なことを肌身で感じられるはずです」

リトアニア研修の実務を担当する神田外語大学国際戦略部と現地のパートナーによる献身的な取り組みによって、オンライン留学で学んだ知識をリアルに体験できる現地での研修プログラムが組まれていった。


■ 研修実施を決断させた学生たちの熱意

だが、海外研修を実施する環境は厳しさを増していった。新型コロナウイルス感染症の新規陽性者数は爆発と減少を繰り返しており、さらには感染力の強い新たな「オミクロン株」の存在も確認された。令和4(2022)年に入るとロシアとウクライナの間で軍事的な緊張感が高まった。神田外語大学の学内からも実施延期の声が挙がっていた。

「佐野元泰理事長には『最後まで諦めるな』と言われ続けていました。私はコロナの状況なので何度か延期した方が良いのではと意見しました。しかし理事長は『物理的に不可能でない以上、なるべく早く学生に海外研修を体験させた方がいい』とおっしゃいました」

強い意志で研修の実施を求める佐野との会話を通じて、金口自身も考えを改めていった。延期をしたからといって、より良い条件で海外研修が実現する保証はない。考えてみれば、いかなる時期でも海外で学ぶことにはリスクが伴う。そしてGLA学部は留学が必修であり、国際貢献や平和の実現を目指す学生たちが将来、仕事をしていくうえで、海外でのリスク対処は避けて通れないことなのである。

リトアニア研修の決行が正式に発表されると、GLA学部の約7割の学生が参加の意思を表明した。海外で学びたい、という学生たちの強い意欲こそが金口に研修決行の決意をさせた。

「私も実行してよいか悩みました。いつ止めようか考え続けていました。しかし、この状況でも、リトアニアの研修に参加し、さまざまな体験をしたいという学生はGLA学部の半数以上に上りました。学生に海外で学びたいという強い意欲があるのであれば、われわれ教職員としてはその意欲に応えたい。それがリトアニア研修の実施を決断した最大の理由です」


■ コロナ禍での海外研修は神田外語の財産となる

リトアニア研修には金口自身も同行することを決めた。出発の2日前の2月12日、金口に改めて、今回のリトアニア研修で学生たちに何を学んでほしいのか問い掛けてみた。

「海外スタディ・ツアーの4つの国と地域のなかで、学生が一番知らなかったのがリトアニアです。リトアニアを学ぶと、自分が今まで知らなかったことが見えてきます。リトアニアをきっかけに世界で起きていることを学べるのです。

この国には、ものすごい長い歴史があり、苦難の歴史もある。それぞれの国にはそれぞれの考え方や感じ方があることを感じられます。将来、さまざまな国の人々と付き合っていくうえで、良い経験になるはずです。コロナ禍の状況で、海外で学べる経験値は得難い。自分の将来に向けてのステップアップにしてほしいですね」

金口は、リトアニア研修はGLA学部の学生にとって得難い経験となるだけでなく、神田外語グループの存在意義を示し、さらには教職員の成長にもつながると強調する。

「私は海外出張には何度も行っています。常に責任を感じながら行っていますが、今回のリトアニア研修は背負ったものの大きさが違うと感じています。神田外語グループや神田外語大学は平和の実現を理念に、外国の言葉と文化を理解する教育の進化を追求してきました。リトアニア研修はいわば、神田外語がこれまでの歴史で培ってきた教育の集大成とも言えます。

なんとかして成功させたい。GLA学部は留学を必修に掲げた学部であり、ここで引いてしまえば学生の信頼を失います。無理をするという意味では決してなく、できるなかで最大限のことをする。コロナ禍のこの状況で海外研修ができれば、学生にとっても、われわれ教職員にとっても大きな財産になると思います」


[現地にて:2022年2月18日@リトアニア カウナス]

■ 異例の海外研修だからこそ行動を律する

2月18日、研修先であるリトアニアのカウナスでオンライン取材に応じた金口がまず発したのは、「無理してでも連れてきて良かった」という率直な感想だった。

「オンラインの発達によってリモートで学べることはたくさんありますが限界はあります。しかし、GLA学部で理想とする学びを実現するには、現地でいろいろな経験をする必要があったので、連れてこられて本当に良かったですね」

現地で金口が学生に感じているのは学生の成長ぶりだという。

「半年前のブリティッシュヒルズ合宿では人間関係に苦労していて、『この子は本当に将来、海外の異文化に対応できるかな』と不安に思う学生もいました。その時に比べるとかなりたくましくなっている。今回は日本とは異なる場所で学生同士が助け合っていくという雰囲気が生まれていると感じています」

コロナ禍での海外研修は異例なことだった。実際、多くの大学が同時期に予定していた海外研修を取りやめていたのだ。学生たちもそれぞれ覚悟を持ってこの研修に臨んでいた。だからこそ、学生自身が研修を完遂するために意識的になっていると金口は気付いたという。

「ルールを守らなければ研修はうまくいかない、ということは学生も分かっていますので突飛な行動を取る学生はいません。昼食や夕食はグループごとの自由行動です。現地を知る意味では、それが学生にとってのプラスになります。LINE(メッセンジャーアプリ)で情報を共有しているので、どのグループがどこに行ったかは把握しています。ホテルに戻ったかの報告もきちんと守られています。学生たちは海外での研修に参加する最低限のルールをきちんと理解し、実践できているので、ブリティッシュヒルズ合宿の時よりも行動が洗練されてきたと思います」


■ リアルな体験による収穫と浮き彫りになった課題

今回のリトアニア研修は協定校であるヴィータウタス・マグヌス大学の提案もあり、リトアニアの独立記念日を含む日程で決行された。

「リトアニアに到着して、実際に活動を始めた翌日が独立記念日でした。学生たちは、式典などでリトアニア人の愛国心や誇りを目の当たりにしていました。研修の最初で見られたのは、ある意味、ショック療法になりました。学生には極めてプラスでしたね」

研修では、リトアニアの近代史を学ぶ博物館や史料館を訪れるとともに、現地学生との交流、市役所の訪問、さらには代表の学生のみではあるが日本大使館への表敬訪問など多彩なプログラムが組まれた。

「学生、行政関係者、そして街で出会う市民など、さまざまな立場の方々との交流ができ、多角的な目線からリトアニアという国を見られているのはとても大きな収穫だと思います。一般的な海外研修は、平日は座学で言語を学んで、大学内で現地学生と交流し、週末に観光ツアーのような見学をします。今回のリトアニア研修では、座って言語を学ぶのではなく、体験が主体です。万歩計が毎日、1万歩を超えています。石畳なのでかなり足が痛いですね」

学生たちは半年前に実施したブリティッシュヒルズ合宿でのオンライン留学でリトアニアの歴史を学び、バーチャルツアーで現地を訪れた。金口は、オンラインで学び、現地を訪れることには大きな学習効果があることを実感した。

「こちらに来て、ヴィータウタス・マグヌス大学の学生とも対面で交流しました。その何人かは、オンライン留学でモニター越しに交流した学生だったので、GLA学部の学生たちも再会を喜んでいました。その感覚を持てたのはオンラインと対面を組み合わせたメリットです。今後、コロナが落ち着いたとしても、オンラインと対面の組み合わせは継続していきたいですね」

一方で、改善点も浮き彫りになったと金口は語る。

「オンライン留学から半年以上、時間が過ぎてしまっているので、学生たちは学んだことをほとんど忘れてしまっています。オンラインで日本と現地を結んで学び、そこから時間を空けず知識が詰まった状態で現地を訪れることが理想だと思います」

コロナ禍でリトアニア研修を決行したGLA学部は、現地を体験することの尊さを再確認しただけでなく、リアルと対面による海外研修のノウハウ構築を一気に加速したのである。


■ 現地に来たからこそ分かる日本の特殊性

プログラムをコーディネートしたヴィータウタス・マグヌス大学は、以前から神田外語大学の外国語学部と協定を締結しており、学生の交換留学を行ってきた。現地の学生とGLA学部の学生が交流している時間に金口や国際戦略部の職員は、同大学の学部長や留学部長とミーティングを行った。今回の研修決行が両大学の関係をさらに深いものにしたと金口は実感した。

「リトアニアは杉原千畝のご縁もあり日本との交流が活発で、ヴィータウタス・マグヌス大学でも100人近くが日本語を学んでいます。本学との交流は、先方の大学にもプラスになるので非常に好意的で積極的にさまざまな提案をしてくれます。強い熱意を感じますね。今回の研修でも、かなり無理を言ってプログラムを組み上げたのですが、嫌な顔ひとつせずに協力してくれました。本学との親和性はとても強いと思います」

充実した研修とともに、もうひとつのミッションは出国から帰国までの間に、新型コロナウイルスの感染者を発生させないということだ。現地に来ると、ある意味、拍子抜けするほど、普通に生活する日常がリトアニアにはあった。その実体験は、学生の海外派遣、あるいは留学生の受け入れに対する金口の意識に変化をもたらした。

「コロナに関しては正直、取り越し苦労がありました。一番厳しかったのは日本を出る時です。日本は水際対策が本当に強化されていて、ある意味、昔の鎖国ではないですが、グローバルスタンダードではないということを痛感しました。

おそらく、こうしている今も、『(コロナ感染者がピークに達している)この時期に、なんでこんなことをやっているのか?』と憤っている方々も多くいらっしゃると思います。しかし、現地に来てみると最低限の感染対策は必要ですが、ホテルから一歩も出られない状況ではありません。多少リスクはあるけれど、学生のことを考えれば、もっと積極的に留学へ行かせるべきだと強く感じています。GLA学部の学生たちには、『恐れなくてもきちんとした対応をすれば海外で学べる』ということを強く発信してほしいですね」


[帰国後:2022年3月10日@神田外語大学幕張キャンパス]

■ オンラインでの印象を塗り替えた現地訪問

リトアニア研修が終了し約2週間が経過した3月10日、金口に取材することができた。さまざまな課題を乗り越えて実現したリトアニア研修を終えた学生たちの変化について、金口はどう感じているのだろうか?

「わずか6泊8日の研修でしたが、学生たちは明らかに成長しました。リトアニアで、自分たちが生きてきた世界とは異なる世界や価値を体験できたことで、『自分は何をしなくてはいけないのか』『自分はこのままでいいのか』を強く感じたようです。学生には強いインパクトのある研修になったと思います」

令和2(2020)年初頭にコロナ禍に突入して以来、対面で行われていたことの多くがリモートに置き換わった。日本に居ながらにして海外の講師から学び、現地の学生と交流するオンライン留学も可能となった。新型コロナウイルスの感染防止のためにリモートでの交流を優先する状況下で行われたリトアニア研修は、学生を海外へ現地派遣する大切さを改めて教えてくれたと金口は語る。

「昨年、『海外スタディ・ツアー2.0』でオンライン留学をして、ずいぶんと学習効果があったと思っていました。今回、リトアニアを訪れた学生に帰国後にアンケートを取ったところ、9割以上の学生が『イメージが変わった』『現地に行かなければ分からなかった』と答えました。改めて海外研修で現地に訪れる意義は大きいと感じました」


■ 平和を実現するのは並大抵なことではない

とりわけ独立記念日の体験は学生たちにとって大きな体験になったようだ。

「リトアニアは、ソ連やナチスドイツなど周辺国との関係で苦しめられた歴史を経て、独立をした。独立を保ち続けなければならないという想いを込めて祝っていることが学生たちに響いたのではないでしょうか。日本とは違い、リトアニアは何度も国がなくなり、政治体制も変わってきたので、学生には新鮮な感激だったのだと思いますね」

そしてロシアのウクライナ侵攻である。リトアニア研修中、ウクライナ情勢は日々、緊張感が高まり、学生たちは現地のテレビでベラルーシに駐留するロシア軍の動きなどの報道を見ていた。戦争の現実がすぐそこまで迫っていたのである。

「歴史的に見れば、リトアニアもひとつ間違えばウクライナと同じようになりかねないことは学生も理解していました。その理解を核に、リトアニアがソ連やナチス・ドイツによっていかに翻弄(ほんろう)されてきたかを強く学べたと思います。リトアニアには穏やかで平和な日常が流れています。しかし、それを勝ち取るのは並大抵のことではなく、たくさんの血が流れました。どれほど長い時間をかけて自分たちの独立と平和をつかんできたのか。リトアニアでそんなことを考えていたまったく同じ時期にロシアがウクライナに侵攻した。平和を実現するのはたやすいことではない、と学生たちは実感したようです」

ロシアのウクライナ侵攻という現実が重なったことで、リトアニア研修は平和の構築に貢献する学びを求めてきたGLA学部の学生たちにとって、またとない学びの機会となったのである。


■ 多様な価値観があることがGLA学部の良さ

独立記念日を体験して、学生の多くはリトアニアが独立を勝ち取った歴史を賞賛する式典を肯定的に見ていた一方で、「式典を見ていて怖くなった。全員が同じ方向を見ているのは怖い」という意見もあった。金口は、さまざまな見方、価値観があることにGLA学部での学びの意味があると強調する。

「学生が自分で感じたことを学びのなかで大切にする。全員が同じ方向を向く必要はまったくありません。多様な価値観があることがGLA学部の良さです。その価値観を持つことは、将来の日本で、世界で役立っていくはずです。学生が素直に感じたことをわれわれが受け止め、さらに後押ししていくことが必要だと思います」

金口は教職員もひとつの価値観に学生を染めることが役割ではないと強調する。

「例えばリトアニアに行ったら、学生はその場で、生で見て、感じて、表現します。私たちはそれを次につなげてあげるだけでいい。教職員は、その場と必要な知識を提供しますが、それをどうこなし、消化していくかは学生一人ひとりが向かい合うべきことだと思います」


■ 海外研修の効果を高める世界史の知識

GLA学部の1期生たちは、ブリティッシュヒルズ合宿と幕張キャンパスでの「海外スタディ・ツアー2.0」で4つの国・地域へのオンライン留学を通じて学び、そのうちの1カ国であるリトアニアへの現地研修を果たした。当初は渡航する1カ国についてだけを学ぶ予定だったが、全員が4つの国・地域を全て学び、その違いや共通点を比較することができた。苦肉の策によるたまものだが、オンライン留学と現地研修の組み合わせは大きな効果があった。

「ブリティッシュヒルズ合宿などで、リトアニアの歴史など最低限のことは学んできたので、事前と現地での二段構えの研修ができたのは大きかったです。事前学習がなくて現地に行っていたら、歴史的に意味のある教会を見ても、『きれいだ、すごいな』で終わってしまっていたでしょう。少しでも事前に学べたので現地でも深く学ぶことができたと思います。事前学習でおぼろげに描いていたイメージが現地研修によって現実になった。そのギャップによって、いかに自分が知らないことが多く、そして学ばなければならないかに気付いた学生が多かった。わずか1週間ですが、現地で活動することで吸収できたことがたくさんありました」

大きな学習効果のあったリトアニア研修だが、同行した金口が現地で感じた課題がある。それは学生の世界史の知識が乏しいことだ。

「リトアニアで学生からずいぶんと質問を受けたのですが、われわれの世代なら知っているような世界史の常識について基礎知識に乏しいことに気付きました。平和や歴史、宗教を学ぶうえでの最低限の知識がないと、理解が進みません。事前に知識を与えて、世界史の教養を底上げする必要があります」

GLA学部の海外スタディ・ツアーは、1年次の前期に学生を海外に派遣し、現地でリアルな世界と対峙(たいじ)し、ショック療法のようにさまざまなことを感じさせて、今後、何を学んでいくべきかを気付かせるのが目的である。だが、その気付きを深めるために、世界史をはじめ最低限の教養が必要であると金口はリトアニア研修で痛感したのだ。

「インドに行けば、貧しい人もいるし、雑多な社会を目の当たりにし、日本との違いや日本が恵まれていることは予備知識がなくても感じられます。しかし、リトアニアやエルサレムで学ぶことは宗教や歴史、文化と深く関わっていることであり、目で見てすぐに分かることではありません。単に経験を優先させることでなく、一定の知識を学生が持って行くことも大切に思うので、そこにも取り組んでいかなければなりません」


■ 不確実な時代だからこそ必要な国際系の学び

在学中に2度の留学を必修とすることで学びの原動力とすることをカリキュラムの柱として開設されたGLA学部。金口をはじめとする教職員は、学部の存在意義を懸けてリトアニア研修を実現した。無事、研修を終えた金口は今、何を感じているのだろうか?

「コロナによって社会の価値観が大きく変わり、ロシアのウクライナ侵攻によって、われわれが『戦争なんて起こらない』と漠然と思っていた価値観が根底から覆されました。時代は確実に変わってきている。そして、まったく将来が読めない時代になっています。

学生たちは、その不透明な時代を今後、50年、60年にわたり生きていかなければならない。そのためにはどのような学びが必要か。GLA学部が平和の学びをプラスしたように、神田外語グループがこれまで築いてきた外国語と異文化理解の教育をベースに、次の時代を生きる若者に必要な学びをプラスしていきたいですね」

コロナ禍によって海外での学びが難しくなり、国際系の学部は入学志願者が減少する傾向が続いている。だが、金口はこういった不確実な時代だからこそ、国際系の学びが求められるはずだと強調する。

「紛争などが起きて国際情勢が不安定であっても、日本人は海外に出て世界の人々と仕事をする必要があります。そんな不確実な時代だからこそ、海外で何かをしたいという学生が神田外語大学に、そしてGLA学部に集まってくると思います。そういう学生を伸ばしていきたい。それは決して国際貢献に限りません。日本国内にも問題はあるし、企業に属しても問題に直面します。『自分が存在する世界を安定させる』という価値観を築き、物事を前に進めていく人材を育てていきたいですね」

2022年3月の取材時、金口は「1カ月後に入学してくる2期生にはコロナの様子を見ながら、できるだけ当初の計画である4つの国・地域で海外スタディ・ツアーを実施したい」と話していた。その言葉を実現すべく、神田外語大学の教職員たちは、コロナ禍での学生の海外派遣をやり切った経験と実践を通じて得たノウハウを強い武器に、各国・地域での研修実現に向け準備を本格化させた。そして2022年4月、神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部は81人の2期生を迎えたのである。(了)


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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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