異文研夏期セミナー

第9回 異文研夏期セミナー

「国境を越える文化ー転換期のアジアー」

開催日時
1999年8月30日~9月1日
ブリティッシュヒルズ
第3日目
分科会(ラウンドテーブル・ディスカッション)
1.「言語・非言語研究の視点から」 司会:徳井厚子氏
2.「日本研究の視点から」 司会:遠山 淳氏
3.「研究方法の視点から」 司会:御堂岡 潔氏
4.「コミュニケーション教育の視点から」 司会:石井 敏氏
5.「情報メディアの視点から」 司会:高崎 望氏
7.「『異文化間研究組織づくり』の視点から」 小林登志生氏
1.「言語・非言語研究の視点から」司会:徳井厚子氏

日本語教育や外国語教育、異文化コミュニケーション研究など各自の関心領域と分科会のテーマの接点を探ることから出発し、司会者からも言語と認知、意味論、語用論、談話分析vs会話分析など、言語研究について異文化コミュニケーションとの関係から提示された。コミュニケーションスタイル・異文化コミュニケーション能力の研究、非言語分析の教育現場への応用の可能性などについて経験・具体例を多数交えながら意見交換が行われ、また、実感・経験を実証によって研究に導くことの難しさ、量的・質的分析ならびに多様性・普遍性の両面から対象を研究することの必要性、日本語を異言語との比較によって研究する際の比較対象の偏りからの脱出、などの問題点が指摘された。
(北海道大学 藤本純子記)

2.「日本研究の視点から」司会:遠山 淳氏

司会者からの問題提起は・コミュニケーションは領域ではなく機能であるので“culture-free”のコミュニケーション・モデルが必要。この“culture-free”のコミュニケーション・モデルから、脳内にある自文化という「フィルター」を研究対象にする。自文化フィルターを通さないコミュニケーションは存在しないから、対象文化だけの研究では不十分。日本文化の相対化のためにも、この脳機能に基づく“culture-free”のモデルづくりが重要である。・日本文化は研究項目(対象)の宝庫である。以上の3点である。議論は、一体“culture-free”という状態が存在するであろうか、という点に絞られた。元来人間の脳は“culture-free”から“culture-bound”へと発展する。ここでは、共通語に対する「標準語」のような抽象化したモデルを考えることはできないかという議論になった。
(遠山 淳記)

3.「研究方法の視点から」司会:御堂岡 潔(東京女子大学)

日本で「異文化コミュニケーション」という場合、(内容も)方法論も多種多様であり、そこに問題があることを司会者が指摘した。それから、各参加者が、自身が実践している「研究方法」について説明した後、それぞれの長所・短所についての意見交換をおこなった。複数の分科会に分かれていたこともあって、研究・研究方法に関心をもつ者のみが参加したため、参加者全員が「実証的研究」をみずからの研究方法としていた。このため良かった点としては、つっこんだ意見交換が活発におこなわれたことをあげることができるだろう。あっという間に既定の時間が過ぎてしまった。残念であったのは、参加者の「研究方法」についての考え方が似ていたため、発言内容が類似し、「多種多様な研究方法」についての意見交換ができなかったことである。時間のことも含め、参加者にとっては、物足りない分科会であったであろう。「異文化コミュニケーション」やその関連科目では、現在、研究型、実践型、実体験紹介型などの授業がおこなわれている。そして、それぞれの科目教員で、「研究」や「研究方法論」についての発想や捉え方がかなり異なると思われる。「研究」の評価基準も大きく異なるであろう。 今後の「異文化コミュニケーション」の研究や教育、実践が、発展していくためには、この多種多様な「研究方法論」について今回と同様、長所・短所を指摘しあい、整理・吟味し、それぞれの「研究方法論」についての評価基準を明確にしていくことが重要と思われる。そのためには、多様な「研究」「研究方法論」観をもつ異文化コミュニケーション研究者・実践者が集まって、率直な意見交換をする機会をもつことが重要と思われる。次回の異文研夏期セミナーでそれがおこなわれるとするならば、工夫は必要であろうが、全体セッションでおこなわれるのが望ましいであろう。
(御堂岡 潔記)

4.「コミュニケーション教育の視点から」司会:石井 敏(獨協大学)

最初に、司会者より、日本社会に潜在する社会問題と教育、学校教育を目標・計画・活動・評価・フィードバックの総合システムとして把握することの必要性、教育問題を小学校・中学校・高等学校・短期大学及び大学の段階別に検討することの妥当性に関する問題提起とディスカッションの方向づけがなされた。続いて、参考資料に基づいて、各段階における国語教育と英語(外国語)教育を中心としたコミュニケーション教育の問題について活発な討議が展開された。小学校段階では、文部省の新提案による英会話教育よりも国語教育の充実、中学校と高等学校段階では、教育水準の全体的低下と国際理解教育の位置づけ、そして短大及び大学段階では、コミュニケーションの技術に加えて教養面の充実等に議論が集中した。日本のコミュニケーション教育が目指すべき人間像の明確化とそのような人材教育に必要な教材及び教育方法の開発がコミュニケーション教育関係者の急務であるということが全体の結論になった。
(石井 敏記)

5.「情報メディアの視点から」司会:高崎 望(神田外語大学)

まず司会者から“情報メディアの高度化は社会全体のコミュニケーション活動を大きく変貌させた。パーソナル・メディアとしてのインターネットは、大衆さえもが情報を創造し発信することを可能にした。同時に、高度化した情報メディアは政治・経済・金融までも支配するようになり、必然的に権力構造の中に組み込まれざるを得ない。この状況の中でメディア・リテラシー教育をどうするか”と、問題が提起された。これを受けて参加者から“メディアはあくまでもツールである。その意味でメディア・リテラシーを教えるべきであるが、それは決して操作技術の習得にとどまらず、得た情報を正しく見きわめる能力、さらに、情報としてメディアに何をのせるかまでを含めた教育でなければならない。また、健全な人間機能の育成のためには、人間本来の生身の身体によるコミュニケーション教育が欠かせない”等の議論が交わされた。
(神田外語大学 児玉 顕栄記)

7.「『異文化間研究組織づくり』の視点から」司会:小林登志生(文部省メディア教育開発センター)

文部省メディア教育開発センタ-のSCS(大学間衛星通信ネットワ-ク)車載局を利用し、会場の討論者9名に加えて全国の25大学のSCSサイトが参加して行われた。討論は、コ-ディネ-タ-が呈示した六つのディスカッション・ポイントに基づき進められた。異質文化間の共同研究における重要なファクタ-として、1)相互の専門的関心、理解、信頼感等に基づく対人関係およびヒュ-マン・ネットワ-ク、2)時間的制約とそれを克服する能力、3)必要な財源の確保、4)企画を実行に移す指導力、そして、5)共同研究の目標達成に至るプロセス、があげられそれぞれについて各参加者の経験に基づき活発な討論が展開された。本ラウンドテ-ブル・ディスカッションは、テレビ会議システムという技術にセットされた不慣れな“文化環境”に置かれ、日本全国の大学の注視の下に、自国語ではない言葉で話し、それまであまり経験したことのないプロセスを課されて討議するという課題に取り組むという点で、それ自体異文化間共同研究のケ-ススタディ-とも言えるセッションであった。
(小林 登志生記)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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