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異文化コミュニケーションに関する研修やトレーニングを実践してきた経験を踏まえ、グローバル化する世界で多文化社会に対処するのは非常に困難なことであると、フォンティンは指摘する。それは理性だけで対処できるものではなく、実践と試行錯誤が必要だというのが彼の持論である。
「異なる環境に対処する最善の方法は、有効と思える方法を試行錯誤しながら実践することです。うまくいかなければ、別の方法を試してみればいい。隣の人がやっていることを観察し、自分の方法と組み合わせ、最善の方法を探す。すると、自分にとっての最善策が浮かび上がってきます。試してみたから分かることであり、試行錯誤の賜物なのです。人間の生活は、私たちを取り巻く自然環境や気候、社会システム、そして文化や習慣などから成る『生態系(ecosystem)』に左右されます。課題への対処方法とその結果を同じような生態系にいる人々と共有する。私は、それを群れが生み出す知能『群知能(swarm intelligence)』と定義しています。
『群知能』では、同じ生態系で使われている他者の方法を観察し、問題を解決するために使ってみて、うまくいけば、より効果的な方法とは何かを模索していくのです。しかし、その方法が有効だという確証はありません。同じ生態系でも、等しく機能するとは限りません。それでも試行錯誤でしか、最適な方法は見いだせないのです」
異文化で生じる問題を解決するために、「群知能」の応用に取り組んできたフォンティンは、異文化コミュニケーションにおける研究と実践を大きく進展させた。そして、彼の研究をさらに広げたのは「存在している感覚(sense of presence)」という概念だった。
「例えば、出席している会議が自分の国、自分の文化圏で行われているのであれば、費やしている意識は10%ほどでしょう。すべては慣れ親しんだものであり、予想可能なので10%で十分なのです。残りの90%は今夜のメニューや家族との関係、済ますべき用事などに費やしています。つまり、繰り返しの日常生活での予想ができる状況では100%で存在している必要はありません。しかし、異郷の地では、何が起きるかをうまく予想できません。何かに気を取られていれば、ミスを犯し、崖から落ち、銃で撃たれ、人間関係を損なうなど、悪いことが起きるおそれがある。だからこそ、異なる文化圏では100%で『存在している感覚』が必要です」
100%で「存在している感覚」を得ると、人は生きていることを実感するとフォンティンは指摘する。この感覚が研ぎすまされていれば、異文化の世界に遭遇しても課題に対処できる。異なる方法に気づき、違う態度で対処でき、任務をやり遂げるために必要な方法を見つけられるのだ。極めて意義深いことがある。意識が覚醒し、生きている感覚を得ると、多くの人々は最適な状態になる。そして、諦めることなく、課題に対処しようというやる気が湧き上ってくるのだ。彼は「存在している感覚」を最大限に利用する方法を研究し、その知見を異なる生態系に対処しなければならない人々へのトレーニングで活用してきた。(3/4)