異文化理解の先駆者たち

第8回 ネスター・カストロ『文化を学び、異文化をつなぐ懸け橋となる』

第二次世界大戦後、異なる文化を理解し、相手との意志疎通を図るための教育と研究が世界的に高まりをみせていきました。そのひとつである異文化コミュニケーションの基礎となる主要な学問は文化人類学です。フィリピン大学人類学部の学部長であり、国際社会科学団体連盟の会長を務める人物にネスター・カストロ氏がいます。カストロ氏は、大学で人類学の教育に情熱を注ぎながら、一方で異なる文化の懸け橋となる「文化の仲介者」として理論の実践に取り組んでいます。カストロ氏の仕事、そして神田外語グループの取り組みを通じて異文化理解教育の重要性について探ります。(構成・文:山口剛/写真:山口雄太郎/文中敬称略)

文化人類学はフィールドワークの学問である。研究対象のコミュニティーで暮らしながら、その文化の仕組みを明らかにしていく。現地で暮らしていれば言葉は覚えられるが、本当の研究はそこから始まる。言葉は理解できているはずなのに、意味が理解できないことが多々ある。カストロは「異文化の人々を理解するには、文化とコミュニケーションの両方を学ぶ必要がある」と指摘する。

カストロはフィリピン大学で人類学を教える一方で、文化人類学を応用しながら「文化的な仲介者」としても活躍している。国際機関や企業からの依頼を受け、フィリピンの先住民族との仲立ちをしながら、双方に文化理解を促し、文化の懸け橋としての役割を果たしているのだ。

フィリピンは世界でも有数の地熱発電に適した地域である。昭和46(1971)年にはアメリカ資本のフィリピン・ジオサーマル社(Philippine Geothermal, Inc : PGI)が設立され、フィリピンでの地熱発電を開始した。PGIの親会社はユニオン・オイル・カンパニー・オブ・カリフォルニア(the Union Oil Company of California : UNOCAL)社である。平成7(1995)年、PGIは、休止火山の多いルソン島のカリンガ州でも地熱発電所の開発を始めた。平成17(2005)年、アメリカの大手石油会社のシェブロン社がPGIの親会社であるUNOCALを買収し、地熱発電施設の運営を始めた。カストロは平成8(1996)年からPGIとコンサルタントとしての契約を結んでいたが、シェブロン社とも再契約を交わした。

「私はシェブロン社と直接契約を交わしました。大学には仕事の内容を伝え、大学での業務には支障をきたさないと誓約しました。そして、現地の人類学者たちとチームを組み、シェブロン社とのプロジェクトを開始しました」

シェブロン社が目指していたのは、山岳地帯であるカリンガ州に暮らす先住民に地熱発電所の開発を受け入れてもらうことだった。カストロは、シェブロン社とカリンガ州の人々の両方を教育することが自分の役割だと定めた。どちらかだけを教育し、説得するのは適切な方法ではなく、双方に文化理解の働きかけをしていくことこそが、よりよい結果をもたらすとカストロは信じていた。

カストロは、現地に赴くシェブロン社の地質学者たちに「現地に入ったら、まず、長老に『水を1杯いただけますか?』とお願いしてください」とアドバイスをした。水は持っていくので現地でもらう必要はないと考えていた地質学者たちは首を傾げたが、カストロにはきちんとした文化的な裏付けがあった。(1/4)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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