異文化理解の先駆者たち

第8回 ネスター・カストロ『文化を学び、異文化をつなぐ懸け橋となる』

異文化との懸け橋になるために必要なのは
相手の文化を尊重し、言葉に耳を傾けること

「山岳民族は部族間の戦いが起こると、まず相手の部族の水源に毒を入れるという習わしがあります。ですから、現地の水を飲むという行為は『あなたを完全に信頼しています』という意思表示になるのです。どんなに言葉を尽くすよりも、たった1杯の水を求めるだけで信頼関係が生まれるのです」

カストロにも信頼を勝ち得る常套手段があった。現地に入るとカストロはまず、自分が大学教授であることを伝える。すると、人々は「私たちに何か教えてくれるのか?」と聞いてくる。そこで彼は「違います。文化人類学者として、あなた方の文化を学びに来ました。あなた方は自分の文化について深く知っている。どうか教えてください」と頼むのだ。人々はマニラから来た大学教授が今まで誰からも見向きもされなかった自分たちの文化を研究したいという申し出に衝撃を受け、すぐに信頼関係が構築されるのだという。

カストロは、シェブロン社側だけでなく、カリンガ州の先住民に対しても文化理解を働きかけた。村の外には異なる文化が存在することを理解できるよう促し、アメリカ文化はもちろん、シェブロン社という会社の文化も理解してもらうよう努力した。説明が難しいのは専門用語だ。カストロは先住民の暗喩(メタファー)を使って説明したこともある。文化人類学者だからこそできる文化の仲介であると言えるだろう。

「カリンガ州の先住民たちは結局、シェブロン社の地熱発電所開発を受け入れませんでした。人々はシェブロン社の話を理解したうえで、発電所を受け入れてしまうとコミュニティーの調和が崩れると判断したのです。結果を伝えると、シェブロン社は先住民たちに『私たちの話を聞いてくれてありがとう。どこか別の場所を探すことにします』と言って、潔く撤退したのです。先住民にとっても収入源になるプロジェクトだったので残念でしたが、互いの文化を尊重し合って、結論に達することができたのは成果でした。かつては、先住民の意見を聞かずに強引に進めるプロジェクトが一般的でしたからね。

相手の文化を尊敬し、自分の意見や方法論は押し付けずに、忍耐強く相手の話を聞く。先入観を持たずに、心を開いて、率直になり、相手の話に耳を傾ける。これが異文化との懸け橋になるうえで、とても大切な態度です。今、同じ文化のなかにも多様な文化が存在しています。若者と老人、異性愛者と同性愛者、知的労働者と肉体労働者。しかし、異文化理解の基本は同じです。相手の文化を尊重し、忍耐強く耳を傾けられれば、信頼関係は築けるのです」(2/4)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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