神田外語グループのいしずえを築いてきた人々

第5回 対談:宇佐美志都(書家)×佐野隆治会長『今を捨て、次に踏み出す勇気』

西洋人は同調しないのだから、
日本人も日本人らしくあればいい。

宇佐美:私はどちらかと言うと、学ぶことに執着が強いところがあるんです。大学を出てから、書家としての活動を始めて、でも文字の成り立ちがもっと学びたくて、京都にある文字文化研究所に3年ぐらい通いました。亡くなられた白川静先生につかせていただき、手前味噌になりますが、最年少で「文字文化認定講師」を拝命いたしました。2年前にはロンドン芸術大学のテキスタイル学科に留学しました。自分の世界を表現するだけでなく、海外の方にも日本の書をより感じていただきたい、発信していきたいと思うようになっていたからというのも一因でした。

佐野:芸術や文化を海外に広く知らしめるのは非常に難しいことだなと思います。例えば、漢字の「人」は、「人と人が支え合っている」ことが語源だと言われる。私たち日本人は感覚的に理解できますよね。ところが西洋人は、独立主義だからピンとこない。支え合って生きていることが、美徳ではない社会だから。「私と神様のつながりがあって、人はそれぞれ独立している」と考える西洋人には、東洋人への説明では分からない。

宇佐美:ということは、東洋人が西洋の文化を感覚的に深く理解することは難しいとも言えますね。

佐野:そうですよ。例えば、東洋人で西洋音楽を理解できる人はすごい。西洋音楽を感覚的に理解して、心の底からいい音楽だと思えるのだから。僕は、それよりも、三味線や太鼓、民謡のほうが、心に響く。学生さんたちにも、日本的なものを大切にしてほしい。だって、外国の考え方に寄り添ったところで、「あいつは自主性がない」と見下されるだけですから。

宇佐美:そうですよね。本で読んだような内容を言ったところで、何も伝わりませんよね。

佐野:そうそう。どっちにしろ、西洋人は同調しないのだから、日本人も日本人らしくあればいい。

宇佐美:自分をきちんと持ってですね。

佐野:「英語落語」っていうのを、学生さんたちにやらせるよう言っているんですよ。

宇佐美:英語落語?

佐野:落語家さんのなかには、英語で落語をする方がいるんですよ。僕はこれを学生さんが自分をプレゼンするのに使えると言っている。例えば、「時そば」っていう短い落語があります。勘定を払っているときに、「いま、なんどきだ?」ってそば屋の親父に聞いて一文を儲けるっていう話ですけど、そばをハンバーガーに置き換えてもいいんじゃないかと。3分ほどでできるから、英語で覚えてパーティーでやればいい。きっと人気者になって、外国人からも認知してもらえますよ。

宇佐美:存在を認知してもらえれば、そこで生きていけますね。まさに、日本の文化である落語と学んできた英語の両方を使える妙案ですね。

佐野:日本人は体が小さいし、パーティーに行ったら見劣りするじゃないですか。でも、それは持って生まれたものだから、しようがない。だからこそ、自分をアピールするものが必要だと思いますよ。(3/6)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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