異文化理解教育の先駆者たち

第10回 宮崎新名城大学准教授『人生を拓くコミュニケーションへの気づき』

教育と研究への情熱の傾け方の
バランスを学んだ留学時代の教員経験

大学院ではアシスタントシップという制度があり、TA(Teaching Assistant)に選抜された大学院生は授業料と生活費が支給されます。TAは教員として学部生への教育を支援する役割を担います。留学の3年目、博士課程が始まるタイミングで僕はTAに選抜されました。その経済的な支援があったおかげで、大学院で学び続けられたのですが、英語で教える立場になったことで、きちんとした英語を話すために英語力を伸ばさざるをえないという状況になりました。

僕が担当した授業は「パブリック・スピーキング」でした。公の席で話すうえでの演説法で全学生必修の授業です。もちろん言語は英語です。アメリカ人というと、はっきりと物を言うのでこの科目は得意と思われるかもしれませんが、必修だから仕方なく受けている学生もたくさんいるのです。課題も多くて、好きでもないスピーキングの授業を「なぜ英語のネイティブではないアジア人教員から教わらなくてはいけないのか」という不満を感じていた学生がいてもおかしくはありません。僕は英語との関係を改めて突きつけられたのです。

ただ、僕は大学での教育に携わりたくて留学していたので、授業にも自然と熱が入りました。何よりも、僕が教えたことで、パブリック・スピーキングという科目を、さらにはコミュニケーションという学問を嫌いにならないでほしかった。しっかりと準備して授業に臨みました。すると、驚いたことに、優秀なTAに与えられる「ティーチングアワード」を受賞できたのです。その年度は、延べ40人ほどの教員がパブリック・スピーキングを教えていたのですが、受賞したのは僕を含めて2、3人でした。学生からは「これだけ教えていることに情熱を持っている教員に出会ったのは初めてです」「非常に厳しかったけれど、とにかくフェアだった」という評価をもらいました。

大きな達成感を得た一方で、他の大学院生からは厳しい意見をもらいました。「僕ら大学院生の本分は研究。学部生への教育はバランスを考えるべき。研究をおろそかにして、教育にばかりに時間を使うべきかを考えた方がよい」と指摘されたのです。僕は好きなことはやり始めるとトコトンまで燃えてしまう性格です。それは嫌いではないし、大切に思っています。だから、周囲から「バランスを考えるべきだ」と言われた時はカッとなりました。

でも、正しいのは彼らです。大学院の目的は研究を完遂して、博士号を取得すること。そして、僕がいくら情熱をかけて授業の準備をしても、学生はすべて吸収できません。それは僕の自己満足であり、学生に押し付けるべきでない。留学中は教育と研究にどのように情熱をかけるか、そのバランスを学びました。(4/8)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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