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銀行同士の合併の調整で大切なのは、相手方の銀行の「文化」には踏み込まないこと。それぞれの銀行には文化がある。文化を否定すると、態度が一気に硬化する。致命的です。とにかく理詰めの議論はしない。機が熟すのを待つ。そのうちに疲れて、「こだわらなくて、いいか……」となる。柿の実が落ちるのを待つわけですよ。
合併の仕事をやり終え、副社長を務めたみずほホールディングスを退職して、関連の不動産会社の役員になりました。2年ほど勤めた頃に、東京外国語大学の亀山郁夫学長から声がかかり、東京外国語大学の学外理事に就きました。
佐野隆治会長と再会したのは、東京外語大の理事をしていた頃です。「ちょっと大学を見に来ないか?」と声をかけていただき、千葉・幕張の神田外語大学を訪問しました。7号館が完成したばかりの頃です。とにかく驚きましたね。英語学習の自主学習センターのSALC。アジアや太平洋の多言語を学ぶ施設のMULC。どれも、個性的な建物でコンセプトが明快です。佐野会長は「これからは、こういった施設を目玉にしていきたいんだよな」と語っていました。
学校というのは「装置産業」の側面があります。学生が学ぶ施設そのもので教育理念を表現できなくちゃいけない。佐野会長がすごいのは、そこです。神田外語大学は施設を見れば、どんな教育が受けられるかが分かる。新聞広告なんて要らない。佐野会長はどこにお金をかけるべきかを分かっている人ですよ。
佐野会長は本気で人を育てることを考えている人。佐野会長を事業家だと言う人もいるけど、僕は生まれながらの教育者だと思います。人が好きで、若者が好きな人。人を育てるために本質を貫き、狭き険しき道を歩んでいく人です。
大学を見学し終えると、佐野会長は僕に「学長をやってくれないか」とおっしゃった。僕はさすがに驚いて、「待ってください。東京外語大で理事はやっていますが、学長は違う。教育の素人じゃ無理です」とお答えしました。
神田外語大学は、初代学長が小川芳男先生。2代は言語学の大家の井上和子先生。3代はアジアの言語と文化に精通された石井米雄先生。そして、前任の4代は外交官として活躍された赤澤正人さん。そこに銀行出身の僕なんかが入ったら、教員は反発するはずです。
私立大学は学校法人の理事会が舵取りをしていくにせよ、現場は絶対に受け入れてくれない。僕に学長は無理だと思いました。でも、佐野会長は、一言、「あんたなら、できるだろ」。それだけです。(4/7)