本物の英国文化を体現させるために

第4回 ジョン・スチュワート・レナルディ ブリティッシュヒルズ元儀典官『英国文化を代弁する責任を担って』

ロンドンの国会議事堂と同じ儀式で
幕を開けたブリティッシュヒルズ

開業の直前、サービス部門のスタッフが到着しました。ホテル学校から派遣されたオーストラリア人たちです。彼らは「我々は、開業日までにすべてをマスターしなければならない」と言ってくれた。頼りになる連中です。家具の配置も終了し、いよいよブリティッシュヒルズのオープニングが近づいてきました。

オープニングのセレモニーに向けて、リハーサルを行いました。日本ではすべてを時間通りに進行させなければなりません。新幹線のようにね。

我々はイギリス的な儀式をオープニングに取り入れました。ロンドンの国会議事堂では、議会の開会と閉会の時に、「黒杖官」の男性が登場し、国会議事堂の扉を叩いて、女王陛下にドアを開くよう要求するのです(※1)

そこで、我々も同じことをオープニングの式典ですることにしました。正面の扉はすべて閉じておく。バトラーのピーター・スタンブリーが扉をたたきました。彼が黒杖官の役を務めたのです。リハーサルでは、扉を閉じ、たたいて、内側からドアを開けました。完璧でした。

公式のオープニングの時が訪れ、VIPが到着し始めました。大使館関係者をはじめゲストの方々が続々と到着します。セレモニーはマナーハウスの前で行われました。テープカットが済むと、いよいよ黒杖官の登場です。マナーハウスの扉は外側に開きます。私はドアの内側で待っていました。ピーターがドアをたたいたら、扉を開く予定でした。

ピーターが扉をたたきました。私は扉を開こうとして押しました。しかし、床につっかかって扉が開きません。ピーターは扉をたたき続ける。でも開かない。みなさんに中へ入ってほしい。扉は新品でしたが、私はついに扉を蹴り飛ばしました。

扉は開きました。私はほっとしましたね。幸運なことに来賓のみなさんはすべてが儀式の一部だと思ってくれたようです。どうやら扉が膨張しており、開かなかったようです。とても愉快な笑い話です。翌日には営繕担当の山中さんが扉を削ってくれたので、同様の問題は一切起きませんでした。

ちなみに山中さんはとても不思議な人物です。誰も彼の過去を知りません。いつもは作業着でしたが、スーツを着ると女性が振り返るほどダンディな人物。私は彼にナイフとフォークの使い方を教えて、彼は私に箸の使い方を教えてくれました。山中さんは、我々が必要とするモノを必ず用意してくれた。でも、彼がどのように調達しているか、誰も知らなかったのです。(4/9)

  1. ※ 1 黒杖官(Black Rod):[英国の] 上院(the House of Lords)の官吏で、その主な任務は、議会の開会にあたって、年に1度の開院式の勅語(the Speech from the Throne)の儀式に出席するよう下院(the House of Commons)議員に呼びかけることである。(由来:この儀式に際して彼が持ち歩く、握りの部分に金のライオンがついた黒い職杖から) 出典:『英国を知る辞典(Dictionary of Britain)』(エイドリアン・ルーム著、渡辺時夫監訳 研究社出版 1988年)
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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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