神田外語と異文化理解教育の歩み

パスポートのいらない英国を国内に創る

神田外語大学開学後、佐野学園が取り組んだ大きな事業は国際語学研修センター「ブリティッシュヒルズ」の設立でした。

神田外語学院では昭和40年代から英語圏の各国の大学と提携を結びながら、語学研修や留学のネットワークを充実させてきました。しかし、留学して現地の文化に触れられるのは経済的な余裕のある学生に限られます。

神田外語学院の実務を取り仕切ってきた佐野隆治は昭和50(1975)年ごろから「バスで行ける国内に朝から晩まで英語に浸れるような合宿所を建てたい」と考えるようになります。外国の環境を創って、そこで寝泊まりしながら外国の文化や歴史、そして言語を学ぶ研修所の設立を立案し始めたのです。

昭和54(1979)年の春、国際語学研修センターの用地として福島県天栄村の山林が候補に挙がりました。広さ17万坪。日本の日常から完全に遮断された環境を実現できる広さです。文化を学ぶ施設にするために中世イギリスの村を再現することになりました。荘園領主の邸宅である「マナーハウス」を中心に、村人たちが住む家々(宿泊棟)を時代ごとに様式を変えて建てていくのです。

本物の英国を再現したブリティッシュヒルズをオープン

時代考証と設計は、マナーハウスや景観づくりを得意とするイギリスの設計事務所に依頼しました。オーク材もイギリスから輸入。施工は日本の建設会社が手がけましたが、イギリスから専門の大工たちが来日し、技術指導を行いました。日本とイギリスの大工たちが、言葉や文化の壁を超えながら、ともに宿泊棟を建てていく工程は、異文化コミュニケーションそのものでした。

建物内部は「本物」で埋め尽くされました。窓枠やドアノブなどの建材はすべてイギリスから輸入。ソファやテーブルなどの家具も本物のアンティークです。そして、書棚には100年以上前の古書が並べられました。

平成6(1994)年7月、ブリティッシュヒルズがオープンしました。研修所とリゾートホテルの機能を併せ持ち、さまざまな体験型の英語研修を実施する日本では前例のない施設です。

館長にはイギリスに縁がある家系に生まれ、日本と世界の歴史と文化に精通する川田雄基が就任。英語を母語とする教員とサービススタッフを採用するとともに、オープン当初はバトラー(執事)も雇用しました。本物にこだわったブリティッシュヒルズは、英語学習ニーズの高まりとともに注目され始め、中学・高校の修学旅行先としても利用されるようになっていきました。

「パスポートのいらない英国」をテーマに中世英国の環境を再現した国際研修センター「ブリティッシュヒルズ」。写真は計画段階のコンピューター・グラフィック。
「パスポートのいらない英国」をテーマに中世英国の環境を再現した国際研修センター「ブリティッシュヒルズ」。写真は計画段階のコンピューター・グラフィック。
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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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