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僕自身は、大学開学の年から、「日本倫理思想史」を教えてきました。日本倫理思想史は日本人というものが、精神的にどのようなことを重んじて生きたのかを学ぶ学問です。日本とは何か? 国際化のなかで、日本人の思想の流れをどう捉えるのか? 日本の未来を考えるからこそ、その過去を振り返る。歴史を学ぶ意義はそこにあるのです。
驚くべきことに当時の神田外語大学では日本倫理思想史が卒業に必要な「必修科目」だったのです。佐野隆治会長は、神田外語の学生には日本の文化や思想をきちんと学ばせたいという気持ちを持った方でした(※4)。開学準備をされている時、古田先生と佐野会長が、日本倫理思想史は必修科目にすべきだとお決めになったのでしょう。
そもそも、大学にこの科目があること自体が珍しい。東京大学の倫理学科でさえ、日本倫理思想史という科目は設定されていませんでした。この分野の他大学の先生方からは「窪田さん、ずいぶんと面白い大学に行きましたね」と言われたものです。
僕は日本倫理思想史の授業で古代から近世にいたる日本人の思想の流れを講義するとともに、近現代における恋愛についてもよく取り上げました。学生が学問に真剣になるのは、自分にとって非常に切実な問題であるか、もしくは、知的刺激を受けるかのどちらかでしょう。神田外語の学生たちは、非常に素直なので、倫理思想史の講義も関心をもって受けてくれました。
数年後、僕はこの科目を卒業要件の「必修科目」から「選択科目」に変更してもらいました。外国語を学びに神田外語大学に入って、日本倫理思想史ができずに卒業ができないというのは、さすがに気の毒なことですから。
思えば、この頃から日本の大学教育において、日本の文化や思想史を学ぶことが見直され始めていきました。それ以前は、大学が日本の思想や文化に関する教育を強調すると、戦前・戦中のニュアンスで「保守的である」と受け止められていたのですが、潮目が変わりました。社会風土が変わったということです。
各大学で日本の思想や倫理の科目が設けられ、この分野の教員が足りないという時期もあったぐらいです。神田外語大学が開学時に日本倫理思想史を必修科目に位置付けたのは、こういった流れの先駆けだったといえるかもしれません。(3/8)