神田外語グループのいしずえを築いてきた人々

第5回 河村幹夫ブリティッシュヒルズ初代館長『外国人との交流は文化理解から始まる』

この部屋でホームズの時代を感じて、
日本人の内にある武士道精神を再発見してほしい

平成26(2014)年の秋、河村幹夫はこれまで集めてきたシャーロック・ホームズの書籍やグッズ、ヴィクトリア時代の史料などをブリティッシュヒルズに寄贈した。『シャーロック・ホームズの思い出』の初版本をはじめとする古書の数々。ホームズの秘書から贈られた手紙。ヴィクトリア時代の音を再現する「ポリフォーン」や当時使われていたテニスやクリケットの道具。どの史料も、ホームズの時代、そしてイギリスの文化を感じるには格好の教材だ。これらの品々は宿泊棟「チョーサー」のラウンジに展示されており、河村が案内役を務めるイベントを開催する際には、参加者はこれらの史料に実際に触れることができる。

「ホームズの物語を読んでいると、彼特有の正義感を感じることができます。つまらない事件には見向きもしないのに、困っている依頼人がいれば経費程度の報酬で引き受けてしまいます。そして、殺人事件であっても私利私欲のものであれば一刀両断に処する一方で、誰かを助けるためにやむを得ず犯した殺人には無罪であると言い切る。弱きを助け、強きをくじく。ホームズという人物にも、ノブレス・オブリージュの精神が宿っていると思います」

「そして、ヨーロッパの騎士道と日本の武士道には共通点があります。弱い者を守り、強い者に挑んでいく勇気。そして、卑しい行動は決してしないという規範です。私は日本人が正しい行動をしていくうえで、武士道から学ぶべき点は数多くあると感じています。シャーロック・ホームズの物語を読み、そしてブリティッシュヒルズのこの部屋でホームズの時代に触れて、日本人が自分たちの中にある武士道精神を再発見してくれればうれしいですね」

河村幹夫(かわむらみきお)
昭和10(1935)年、長崎市生まれ、名古屋市育ち。一橋大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。ニューヨーク、モントリオール、ロンドンで海外勤務を経験。在職中には故・川田雄基ブリティッシュヒルズ名誉館長の上司を務めた。平成6(1994)年に同社を退職し、多摩大学教授に就任。経営学博士。ロンドン駐在時代からシャーロック・ホームズに関する研究を始め、多数の著書を執筆。平成26(2014)年にはホームズに関する原書や史料などをブリティッシュヒルズに寄贈した。現在は企業の顧問や大学の監事、文筆家として活躍している。令和元(2019)年11月永眠。享年84歳。

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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