異文化理解の先駆者たち

第11回 大谷みどり 島根大学教授『異文化の学びを教育に還元する』

あえて“devil’s advocate”になり
反対意見で議論を活性化する手法に出合う

議論が始まると、予想通り「男女は平等であるべきだ」という意見が多い。するとアメリカ人のファシリテーターが「そんなことはない。男性の方が優位に立つべきだ」と言い放ったのです。みんな彼の意見にかみ付いて、侃々諤々の議論になってしまいました。

授業が終わり、私はみんなに「ひどい議論になって、ごめんね」と謝りました。すると、クラスメイトたちは「こんなに楽しかったのに、ミドリはなぜ謝るんだ?」と不思議がります。そして、アメリカ人のファシリテーターは「僕も男女平等を大切に思っている。でも、みんな同じ意見だとつまらない。だから僕は“devil’s advocate”になったんだ」と言うのです。

わざわざ悪魔(devil)を推奨(advocate)する。あえて反対意見を言って議論を活性化させる。ファシリテーターにはそんな役割もあり、議論にはこういう方法論もあるのだと学びました。日本だと穏やかな議論になりがちですからね。

授業のほかにも、日本語の授業のティーチング・アシスタントの仕事や日本のことを幼稚園や学校、地域の老人ホームなどで話す「インターナショナル・スピーカーズ・ビューロー(International Speakers’ Bureau)」のボランティアなども経験しました。日本のことを語り、教えることで学べたことも数多くありました。最初のアメリカ留学は、とにかくコミュニケーションの違いを実感する日々でした。

昭和60(1985)年8月、日本に帰国しました。修士課程の授業は全て単位を取得したのですが、修士論文は日米のパーソナル・コミュニケーションの比較をテーマにしたので、日本で資料を集めたいと考え、帰国してから完成させることにしました。

一方で、異文化コミュニケーションの学びを生かした仕事を日本でできないかと思っていました。帰国前、ハウエル先生をはじめ、先生方が「ミドリ、日本に帰ったら、ドクター久米に会いなさい」とおっしゃるのです。久米昭元先生(※2)は、後に神田外語大学異文化コミュニケーション研究所の副所長を務められる方ですが、昭和50(1975)年からハウエル先生に師事されていたのです。(3/11)

  1. 久米昭元(くめてるゆき):元・神田外語大学英米語学科教授/異文化コミュニケーション研究所副所長、元・立教大学異文化コミュニケーション学部教授。
    »『かつてない活動を展開し続けた異文研』
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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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