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異文化コミュニケーション研究所では首都圏以外の地域の大学に勤める研究者が、活動の打ち合わせのために上京する際の交通費を補助した。宿泊も神田外語大学内の施設を利用することができた。移動と宿泊という最低限の経費を負担し、熱意のある研究者同士の活動を後押しした。結果として、研究所の古田暁や久米昭元が中心となりつつ、南山大学(愛知県)教授の岡部朗一や桃山学院大学(大阪府)教授の遠山淳らが参加した『異文化コミュニケーションキーワード』や『異文化コミュニケーション・ハンドブック』(ともに有斐閣)といった出版物も実現したのである。
このほかにも、大学におけるコミュニケーション教育の現状調査、異文化コミュニケーション教育のためのビデオ制作、用語集の編集、テーマ別の研究会、大学内での講演会、異文化コミュニケーションの専門書を揃えた図書室の整備などが行われた。大学の枠にとらわれない活発な活動によって、異文化コミュニケーションという学問は日本全国の大学に広まっていった。その原動力となった神田外語大学附属 異文化コミュニケーション研究所の活動には、社会運動のような「熱」があったのである。
「異文化コミュニケーションの能力は、グローバル化が進む現代社会で最も必要とされる能力と言えるでしょう。神田外語大学を卒業して、コミュニケーションを学びにアメリカの大学に留学した卒業生も数多くいます」
久米は神田外語大学における異文化コミュニケーション教育の成果についてこのように語っている。また、開学直後の神田外語大学で学んだ数多くの卒業生のなかには、現在、京都大学准教授をしている岩隈美穂がいる。岩隈は1992年に英米語学科を卒業後、アメリカに留学し、コミュニケーションの学位を取得した。平成20(2008)年からは京都大学の大学院医学研究科で「医学コミュニケーション」という講座を教えている。「医学と社会をコミュニケーションでつなぐ」ことを目的としたこの領域の講座が設置されるのは日本で初めてのことである。新しいコミュニケーション研究の領域で高い評価を受ける岩隈の存在は、古田暁が長年思い描いてきた「異文化コミュニケーションによって若い世代を教育し、社会を変革していきたい」という理想が結実しつつあることを予感させてくれるものと言えるだろう。(13/15)